テーマ:親のこころ

封印された夢

封印されたもの 「これ、なーに?」  末娘が訊く。倉庫の片付けは半ば。埃をかぶった段ボール箱が、彼女の視線の先にある。  十字に紐で頑丈に結び補強した箱。開けると、出て来た原稿用紙の山。思い切りよく書き殴った鉛筆文字の『生原稿』。  記憶のページをめくるまでもない。決して忘れないものを閉じ込めてある。 「とっても大事なもの…
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こころの風景・1

恋する二人の作戦勝ち  若い頃、付き合っていた彼女の父親は当時国鉄に勤務する堅物で、娘の門限は8時!二十歳を過ぎた彼女にそれはないだろうと思っても無駄なことだった。  レストランの調理場で働いていた私は、大体仕事を終わるのが十時過ぎ。とてもゆっくりとデートを楽しむ時間が取れるどころか、門限を前に顔を見るのもまままならない。  …
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添い寝はお父さんの役目?

 次男坊は四人いる子どもの中で唯一の『お父さんっ子』。次男坊を授かったのは、長年やっていた喫茶店を閉めてしばらく仕事がなかった時。妻は保母として働きに出ていたので、育児が私の手に委ねられた。  オムツ替え、哺乳瓶……なれないことばかりだったが、中でも一番悪戦苦闘したのが赤ちゃんの傍での添い寝。スヤスヤと素直に眠ってくれると御の字だが、…
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帰郷ーそして何かが・完結

神輿を担ぎあげた誇らしげな男衆らの顔、顔、顔。龍悟は、その目撃者だった。 (時代は変わってるんや。今やったら、オレはオヤジに会える!)  龍悟は口を軽く結んで目を閉じた。 「龍悟。お前が何を考えちょるか、お母ちゃんには分かる」  母は息子の表情のわずかな変化も見逃さない。 「そやけど、世の中、まだまだ甘いことないで。お母ちゃん…
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帰郷ーそして何かが・その6

龍悟は子どもらを理香子に任せて、少し早めに家に戻った。 縁側に母の姿があった。吊るし柿にする小粒の渋柿を丁寧に剥いている。毎年そうやって吊るし柿を作る母だった。 「お母ちゃん」  龍悟は子どもの頃と同じ呼び方をした。母と二人きりの時は、ややもすると出てしまう。甘えん坊の名残だった。 「なんや、お前かいな。えろう早かったんやな」 …
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帰郷ーそして何かが・その5

「おう1落とすなー!」  その時、境内の指定された位置に屋台を鎮座させた各地区の一人が飛び出した。無言である。釣られて二人、三人、バラバラと駆け出した。東畑崎の神輿の傍らで、終戦と目を合わせた。すかさず周旋が頷いた。  彼らは神輿の下がった側の、担ぎ棒の下に潜り込んだ。東畑崎の男衆の間で担ぎ棒に肩を入れた。下がった側が持ち直した。神…
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帰郷ーそして何かが・その4

一番乗りは神社の所在地である清土地区の布団屋台だった。裕福な家が昔から多い地域だけに、この近辺では最も重量感のある豪華絢爛な屋台だった。鋭角に反り上がる布団屋根に取り付けられたカザリ金具(梵天)の黄金色の海老が左右一対に踊っている。高砂の曽根天満宮の祭り屋台を譲り受けたものだった。 芋の子を洗うように練り棒に群がった担ぎ手の男衆の中に…
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帰郷ーそして何かが・その3

清土団地は数年前に清土地区北端にある一角が開発されて、生まれた新しい分譲団地だった。 「どこの誰やら分からんもんが、ようけ越して来よった。清土の家のもんの新宅もあっけど、東畑崎もんも入って来とるわ。もうなんもかんも混じってしもうてからに。時代はえろう変わっちまったちゅうて、みんな嘆いとるわ」  そう龍悟の母は、半分ぼやき口調で話した…
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帰郷ーそして何かが・その2

「どこへ行っとったんやいな?」  灰皿を出して来た母は訊いた。 「うん、ちょっとな。懐かしなって、そこらを歩き回ってた」 「ほうか。この辺りもすっかり変わってしもたでな」  母がちょっと寂しい顔を作った。 「ああ、ビックリしたわ。ちっこい田圃が、みんなドでかい田圃になってしもとんやからな。時代やな。俺の記憶にある故郷なんかかけ…
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帰郷ーそして何かがその1

帰郷―そして何かが  何年ぶりの故郷だろうか?ちょっとした感慨に、沢口龍悟は何尾もとらわれた。  千葉の大学を出て、そのまま先輩の伝手で就職先を現地企業に決めたときから、龍悟と生まれ故郷のK市との距離は限りなく広がり始めた。  もう20年以上になう。結婚もし、既に二人の子どもにも目軍れて、家も千葉に買って落ち着いた。仕事も順調…
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二年目の春ーそして・その3

 去年の畦焼き中に腹の痛みを堪え切れず、家に慌てて取って返し便所に飛び込んだ慎三は、この池の土堤焼きに結局立ち会えなかった。 「こいつは慎重にかからにゃヤバいでのう」  慎三の隣にいる初老の男がいった。慎三が見返ると、その気配に誘われでもしたのか、男も慎三を見た。にやりと笑った。 「おまはん、初めてやったのう」 「はあ」 「そ…
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二年目の春ーそして・その2

「わしらもやるか?」 川沿いにある湯口家の田圃は、昨年刈り取ったままに稲藁が散らばっていた。コンバインを導入するまでは、束にした藁を積み上げた坪木の点在した田園風景だった。それがすっかり様変わりして、完全に風情は奪われた。 藁が重宝がられた昔、といっても慎三が子供の頃だから、まだ三十数年しか経っていない。それが、いまや藁は稲刈りの際…
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家族・完結

誠治が三千代を送り届けて、再び家に帰り着いたのは、既に真夜中近かった。散らついていた雪も本降りに変わっていて、家の前は白い絨毯を敷き詰めたように積もっていた。  車から出て一歩踏み出すと、ジャクッと鳴った。実に気持ちいい感触が足裏に広がった。  照正とヤスエは、まだ起きていた。客間ですき焼きの残りをつつきながら一杯やっていた。珍しく…
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家族・その3

「ええ具合にたけとるがいな。さすがお父さんや、年季が入っとるで」 ヤスエはケラケラと笑った。まさか年季ですき焼きの味が決まるとは思えなかったが、誠治は父親に感謝した。気のつかぬ家族と勘違いし、腹を立てた自分が恥ずかしかった。 「さあ、顔が揃うたんやで、早速頂こうかいな。誠治、そちらさんにもはよう席について貰うてからに」 ヤスエは性…
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家族・その2

「ほれ、見てみい。無理な事するさかい、こない酷い目に遭うんじゃろが。自分の甲斐性、よう考えなあかんわのう」  傷心の誠治に一層の打撃を与えたヤスエの強烈な皮肉である。  返納された結納品一式は、日の目を見ることもなく田島家の物置に仕舞われたままになっていた。新品のまま中古化運命にあった。  そんな過去があるせいで、ヤスエは誠治の言…
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きょうこのごろの記

告白された記念日  好きになった相手を、ただ見守るだけしか出来ない。内向的な性格で、思いを正直に告白などとても無理な話だった。  やはり、彼女にも片思いだった。相手に好きだとはやはり打ち明けられない。(また、失恋かな……)でも、彼女を遠くから見ているだけで不思議に幸せだった。 「あのう、今度のゆかた祭り、一緒に行ってくれませんか?…
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雨上がり・その2

雨は午後になって上がった。厚い雲は跡形もなくなり、青空が随分と広がった。  伝吉の心は一向に晴れなかった。くそ面白くないと言った顔付きで、茶の間のざわめきに背を向けたままである。  兼子は、もう嬉しくてたまらない風で、生き生きと征夫の世話を焼いている。それがまた伝吉には癪に触ってたまらない。  星井理代子という若い女は、征夫と同棲…
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しあわせ報告

進路先の大学も決まった末娘は、いっぺんに成長したかのように見える。自分で見つけてきたアルバイト先の研修に大張り切りで通いだした。スター〇〇のコーヒ店が地元のイオンに進出してくる。その新設店のオープンスタッフである。これ内緒の話だが、彼女、コーヒーが全く飲めなかった。紅茶だけという徹底ぶりだったのが、最近はコーヒーを飲んで味を覚えさせられ…
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