記憶の竹箸

 父と祖父は私をからかうのが楽しくてたまらない様子だった。
「あれ?」
大事な箸が入っていないのに、まず気付いた。弁当の中身を確認するどころではない。手づかみする選択肢は当時の私にはなかった。
「どないしたんや」
「箸が入っとらん」
「そら大変や。母さん、よう忘れよるからのう。こらお昼はお預けや」
「ちょっと待っとれ」
 祖父はなたを手に立ち上がると、藪の中へ。すぐ出てきた祖父の手に、竹の切れっぱしがあった。二つに割ると「ほれ」と父に一つを抛ってよこした。父も心得ていて、鎌を使い竹をそぎ始めた。祖父も器用になたを使って作業を始めた。そいだ竹をせっせと削り上げていく職人芸に見とれてしまった。
「ほれ、これで弁当を食えるやろが」
 瞬く間に出来上がった竹箸は、見事な出来栄えだった。いい香りもあった。
「竹の箸で食うたら飯はうまいぞ」
 祖父がいい、父は笑顔で頷いた。
「どないな時でも、山や畑で困ることはあらへん。ちょっと頭使ったら、間に合いよる。わしらの暮らしは自然の恵みとの二人三脚や」
 父のどや顔をまぶしく感じた。
 食事のたびに重宝している竹の箸。塗り箸にはない愛着がある。越前で塗り箸と一緒に買ったものだが、祖父と父の思い出とともに大事に使っている。
img022.jpg