喫茶店商売5年目の哀歓

喫茶店商売5年目の哀歓

 喫茶店を営業して5年目。今年ばかりは最悪の不景気風をまともに受けて、グラグラグーラ!
 これも地元経済を支えてきた大企業の合理化が本格化したせい。それでも耐えて頑張るしかない現状が何とも情けない話である。
 ところで、今年も例年通り、何人かの常連さんが去っていった。転退職、結婚、転勤……理由はいろいろだが、数年間にわたって毎日顔を合わせていたのが消え去るのだから、こんな寂しいことはない。
 朝一番に息弾ませて来店し、熱い紅茶をおいしそうに飲んでいた彼女は、結婚して大阪へ。
「いつか子ども連れて、マスターが淹れてくれる紅茶飲みに来ますね」
 がお別れの言葉。
 モーニングのパンを珈琲にひたして口にした、総入れ歯の老紳士はにゅういんしてから音沙汰なし。昔の苦労話を楽しげにしゃべっていたのが懐かしい。
 すぐ近くの工場に勤め、お昼に必ず一番安い定食を瞬く間に平らげていた彼は、組合活動の失敗で追われるように退職。「これで健康を取り戻せるさ」が最後の弁。
 みんな悲喜こもごもの思いをこめて、それぞれに散って行った。
 例年なら交代するかのごとく新しい常連客が現れたのが、今年は不景気風を反映して皆目。
 いつもの時間にポカッと空いた席を所在なげに見やり、「みんあ幸せになれよ」とつぶやくこの頃である。
(神戸・1987・12・23掲載)

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