特売ねらい

 家を出たのは、七時五分過ぎ。そろそろ通勤ラッシュに差しかかる。七時半になったら、車の数珠つなぎに巻き込まれて酷い目に遭う。まだスムーズに車は流れている。十分もあれば到着する。七時からの特売は間に合う。
 駐車場に車はバラバラだ。この時間が狙い目である。目指すはスーパーマーケット!
「いらしゃいませ」
 入り口の自動ドアを入った所に警備員が立っている。客を迎える挨拶も彼の業務なのだろう。この前は空きペットボトルの片付けをやっていた。警備員も本業だけに固執していてはお呼びがかからない時代である。
 店内はごった煮の光景が繰り広がる。カゴ車が売り場の通路に止まり、従業員は品出しに懸命だ。ショッピングカートを押す客が邪魔になるまいと傍をすり抜けている。主客転倒とは、こんな光景を指すに違いない。
 二年前は二十四時間営業。あの原発事故の後、夜十一時時閉店となった。だから朝七時の早朝開店と品出しが重なる。ある意味では客無視のシステムといえよう。
 売り場に入ると野菜コーナーを素通りで急いだ。携帯で時間を確かめると、七時十分。これぐらいの遅れならまず大丈夫だ。年配の男性が何人か同じ方向を目指している。
(あった!)
 カゴ車に積み上げられたパック入りの卵。すかさず手に取った。裏返して確かめる。割れていない。それだけ確かめてレジに向かう。
「ありがとうございます」
 レジに立つ店員の声は、短い間隔で繰り返される。よくみれば、卵のパックを一つだけ手にした客が何人か並んでいる。今日の特売目玉、九十八円(税込)の卵パック狙いの連中だった。顔馴染みも何人かいる。
 毎週火曜日は特売日。その目玉の卵パックの人気はすごい。一日に三回チャンスがある。昼からの二時と五時は店の入り口まで列が出来る。並んでなんとか手に入った。それが早朝七時は誰も並ばない。ラクラク手に入る。立ちっ放しで並ぶのが辛い高齢者の大多数は早朝にやって来る。私もその仲間だ。
 卵はひとり一パックに限られる。その関門をすり抜けるべく、みんなあの手この手を使う。年金と高齢が重なると一様に吝嗇となる。彼らの知恵の使い様は妙に悲しく侘しい。
「お連れさまはおられますか?」「あ?ああ、ほらあっこに嫁はんがおるわ」
 どう見ても孤独な老人の図々しい主張が罷り通る。店側も心得たものだ。レジスタッフはしつこく確かめはしない。それでも正直者は何度も出たり入ったりを繰り返す。それも別のレジを通過する。いやはや姑息だ。
 今朝は五度レジを通った。せしめた戦果の特売卵は五パック。してやったりとと思う。
 これで二週間はオカズに困らない。使い切れば、またまた早朝のスーパーに飛んでいく。
次は十パックゲットに挑戦してみてもいい。

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