大人の手記シリーズ・その1

社内恋愛は危機管理を!

 高校卒業後、働き始めたS書店は、従業員二十人というから結構大きかった。支店も三つあり、そちらも五人ずつ働いていた。社長が女性のせいか、全店従業員三十五人のうち二十八人が女。それも若い子から勤続二十何年のオバさんまで揃っている。
 私が配属された店は男性が私を含めて、たったの二人である。しかも相手は五十歳近いオッチャンなので、二十前だった私は大モテであった。
 まず主任のM子が好意を見せてくれた。三十過ぎのオールドミスで、美人のグラマーであった。後輩の私になにくれとなく世話を焼いてくれた。それも文字通り手取り足取りで、身体が触れ合うほどの距離とあって、若い私はときどき衝動的な欲望を覚えたものである。
 ある日、集金回りにM子とコンビを組まされた私は、なんと車の中で誘惑されたのだった。真っ昼間、山道の脇に車を停めて、私はM子の洗礼に歓喜したのである。
 以来、ちょくちょく人目を忍んでM子とデートを重ねていたが、まさか十以上年上の女と結婚するつもりなどない。(遊びなんだ!)と徹底してM子に甘えていた。
 翌年、新入社員の中に好みの女の子を見つけ、今度は結婚を考えてアプローチした。付き合っていくうちにお互いに好感を持ち合い、やがてS子と肉体関係も生まれた。
 つまり、そのころはS子と付き合いながらも、M子とも切れないでいたのだ。男のズルさで、豊満なM子、楚々としたS子、両方のセックスを堪能していたのである。しかし、これが間違いだった。
「本当にS子と結婚するなら、ちゃんと手切れ金を出しなさいよ!」
 S子との結婚話が職場で噂になったとき、逆上したM子に呼びつけられて、こっ酷く責められたのである。
「そ、そんな……ぼくらはお互い合意の上で楽しみ合ったのに……お金なんて…」
「なめるんじゃないわよ。私だって上等な女なんだから。それをもてあそんでおいて、なんにもなしで、ハイ、さようならで済むと思っているの!」
 エクスタシーのときにみせる、あのなまめかしい表情はどこへやら、M子は凄い形相で詰め寄った。
「あんまり無責任なこといってると、あんたらの結婚、メチャクチャにしてやるからね」
 そういわれても、まとまった手切れ金など出来るはずもなく、ほうりっぱなしにしておいた。
 すると間もなく職場中に“女だましの○○”という、とんでもない噂が広まった。そしてS子のところに、私を中傷する電話がいろいろな声でかかってきた。名前は名乗らなかったという。
 結局、S子とは気まずくなって、だんだんに遠ざかり、そのうちデートも出来なくなってしまい、職場に居づらくなった私は、ついに辞めることにした。
 辞表を出して家に戻った夜、、M子からしつこく電話がかかってきたが、もう恐ろしくて切ってしまった。
 新しい職場に移っても、社内恋愛の恐ろしさを骨身にしみて知っていたから、二度としなかった。
(週刊読売・平成元年十一月二十六日号掲載)

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