テーマ:小説

ちょっと退屈な創作

刺身包丁でマグロの柵をひくのもリズムがいる。三千を上回る切り数だった。イカとサーモンはすでに切り揃えてある。まずまず順調な流れに、坂手翔太は満足を覚えた。  ゾクゾクする。足元から厳しい冷気が立ちのぼる。生魚を扱う調理場は、一年の大半が冷房を効かせた独房と化す。厳冬期はさすがに冷房は止まるが、ストーブなど暖房器具はやはり持ち込めない。…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ミニノベル・なすべきこと・終章

答えを出すのに三日かかった。杏子にもう迷いはなかった。 「あたしたちの赤ちゃんの専属保母になることに決めた。それがあたしの結論」 「そうか。そう決めたんやな、そう」  志島は正直な男である。安堵感と喜びがみるみる顔に溢れでた。(あたしは間違わなかった!)杏子は確信した。志島と赤ちゃん、親子三人の生活に、自分の幸せがそこ…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ミニノベル・なすべきこと・その2

そんな施設とわかっていて就職したんだろといわれたら弁解のしようはない。好条件が揃う公立の保育所に入りたいと誰もは切望するが、それが叶うのは少数の恵まれた保母たちだった。杏子はゼミの教授の後押しがあってさえ、やっと入れたのが、この施設だった。  面接をしてくれたのは、主任だった。 「うちの場合、結婚した保母さん、ほとんど寿退園…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ミニノベル・なすべきこと・その1

「四国へ帰ります!」  空々しい理由づけだった。四国は故郷でも何でもない。そこへ帰るつもりなど毛頭ない。すべて口先だけの誤魔化しだった。笠松杏子は、騙す主任への罪悪感を必死に振り払った。 「そうなんや。そら仕方ないなあ、家の事情やし。お母さん、大事にせなあかんよ」 「はい……」 「了解しました。上…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ミニノベル・雨の贈り物・最終章

そんな幸吉に彩絵は心を開いた。これまでと打ってかわった明るさで、幸央との出会いと生活ぶりや、彩絵自身の故郷や家族についても饒舌に話した。  彩絵が人前であまり笑顔を出せないでいる理由を、幸吉は知った。長い年月を通じて自然と身に備わった自己防衛だったのである。  彩絵は和歌山で漁師の家に生まれている。四歳の時、和歌山を直撃した大型の台…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ミニノベル・雨の贈り物・その5

「あの……」 「いや、煙草切らしたんやがな。そいでちょっと買いに出て来たんや。タバコなかったらイライラすっさかいなあ」  幸吉の方が狼狽えた。顔が赤くなり、しどろもどろになった。しなくてもいい弁解を懸命にしている。 「あんたら、役場へ行ったんじゃなかったんか?」 「この子を連れてじゃ大変だからって、あの人がひとりでいってくれ…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ミニノベル・雨の贈り物・その4

「お父さん、どこ行くの?」  気付いた和子がすかさず尋ねたが、幸吉は黙殺して居間を突っ切った。 「もうお父さんは、子どもみたいな真似してからに。いつまですねてんのやいな」  和子は息子夫婦(?)へ弁解でもするように、夫を責める口調を慌てて作った。幸吉はちょっと荒っぽい仕草で玄関の戸を開け放つと、外へ飛び出した。  家の裏手に増築…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ミニノベル・雨の贈り物・その3

雨は午後になると上がった。厚い雲を押し広げて、青空が随分と広がった。それでも油断はならない。ここ数日、降ったり止んだりを繰り返している。  幸吉の心は一向に晴れなかった。くそ面白くないと言った顔付きで、茶の間のざわめきに背を向けたままである。それでいて、ちゃんと耳は研ぎ澄まされている。  和子は嬉しくてたまらない風で、人が変わったよ…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ミニノベル・雨の贈り物(その2)

「幸央がおってくれたらねえ」 「アホ。 あいつの話はもうすな。 けったくそ悪い」 息子の名を和子が口にすると、 幸吉は一遍に不機嫌になる。 栗饅頭を指で摘むと、 まるで憎い敵を 見つけたように睨みつけた。 そして荒っぽく口に放り込んだ。 味もへったくれもない。 「そない怒らんでも……」 夫を見やって、 諦めたよ…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

ミニノベル・雨の贈り物(その1)

今回は ちょっとお堅く 小説もどきで お邪魔いたします。 なんと気の多き性格なんだ? と自分でも感心してしまいますが、 空気の読めない この一貫性のなさが B型人間の長所であり 短所なのです。 (ちなみに わたしの場合ですから、 悪しからず。笑) こう雨がしつこく降り続くと、 やたら腰や足の関節が痛ん…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

けせらせら その3

「ご苦労さん」  帰宅を出迎えた妻に、Vサインを突き出した。気分は晴れ晴れしている。 「せいせいしたわ」 「ほな長生きせなあかんよ。まだまだ稼いで貰わんと承知せんからな」  三人の子供は社会に送り出したが、もう一人高校生の末娘が残っている。大学に進む予定だ。まだまだ親の責任が雄二を雁字搦めにする。…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

あ~あ~

8日。 残念な悪天候。 雨が降ったりやんだり。 どうしようもないですね。 ただ桜もモクレンも 懸命に 素敵に咲いてくれているのが 心を和らげてくれました。 素直に 雨中の花見を 楽しみました。 けせらせら(題名変更しました)・その2  遊休が十日まとめて取れた。慢性的に人手不足の職場だった。いつもてん…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

してやったり・その1

洗米タンクの洗浄にかかった。 人間が三人も入りそうな容量のタンクは 洗うのが大変だ。 弁当製造工場の一角を占める 炊飯機は大人しくなっている。 ベルトコンベアーでガス台の上に炊飯釜を送り、 ご飯を炊き上げる時間は、 ゴーゴーと動力音がうるさくてたまらないのが、 まるで嘘に思える静けさだった。 「どないや?」 …
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

2005年度作品・犬死に

明日は娘の演奏会。そして大雨。 落ち着いて、ブログが書けないので、 旧作をアップしました。申し訳ありません。 「チリチリチリ…」  どこかはるか遠くから伝わってくる。夢見ごこちで聞いている。  いきなり体が激しく揺り動かされた。 「おとうさん、おとうさん」  耳元に飛び込む声。現実に引き戻されるには充分過ぎる。…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

昨年の入選作(妊婦のユ~トピア)

「どないしたんや?」  目ざとい夫の俊哉は、いつもとちがう妻の様子を気にして言った。 「うん。…なかったんや」 「え?ないって、どういうこっちゃ」 「そこ…更地になってた。近くの煙草屋さんで訊ねたら、三年前に病院閉まったって…院長先生が亡くなってすぐだったらしいわ」 「跡継ぎがおらんかったんやな。そやけど想定外や・そ…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

お化け屋敷リポートと小説「ふれあい記念日・完結

参加者に島根から加西に移住して加西の活性化に取り組む若者や、画家の卵や、多彩なメンバーが結集していました。 3時にお化け屋敷の開幕! 入場者の先陣を切って、サンテレビの取材クルーがカメラを回し、美人(?・暗くてよくわからなかったのだ)アナウンサーが二人、怖がり体験取材。かなり「きゃー!ぎゃー」と大騒ぎ。脅すのも真剣勝負で、これでもか…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

お化け屋敷リポートと小説「ふれあい記念日・2

やっと生き返った思いです。 7日。 加西サイサイまつりは市役所駐車場を会場に開始。 議会棟では、 恒例の人気イベント「お化け屋敷」ラストの仕込みがスタート!朝8時から集まったメンバーは25名。 青年グループ「えんどれす」、地元高校ふるさと創造クラブ部員、ジュニアリーダー……と大半が若者に交じって、 「老人会代表で…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

小説・ふれあい記念日・1

新しいブログがかけそうにないので、30代のころに書いた小説をコピーしました。 末娘の梨恵が通う身障児通園施設『タンポポ』が入っている総合福祉施設『市民ふれあいセンター』の恒例行事『ふれあい祭り』の日だった。 気の進まぬ妻をいつもと同じように根気よく促して家を出た。傍目にも妻の疲れははっきりとしている。梨恵は三歳。まだ足元が覚束な…
トラックバック:0
コメント:1

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・完結

彼らの復活が影響して、今年の担ぎ手の意気込みはかなり違う。それをさらに煽り立てる兄たちの姿に、誠はムラの男たちの意地と底力を垣間見た思いだ。 誠は胸が熱くたぎるのを感じた。彼もムラの男衆のひとりに間違いなかった。 「ええか!気張ったれや!この一回しかない思うてのう!神さんにわしらの根性を見て貰おうやないか!」 「おうー!」  男…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・12

「お前にやって、まだまだやりたいことがあるんやろからな」 「「……兄貴……?」  誠が開きかけた口を兄は遮った。 「そやけど、誠よう。いつかは必ず、ここへ戻って来い!お前にとって、町では見つけられん安らぎがあるんは、お前が生まれ育ったふるさと、ここにしかあらんのやからな」  そう。兄が言う通り、ここふるさ…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・11

太鼓蔵から曳き出された屋台は、囃しと太鼓を打ち鳴らしながら、素早く二輪の台車が屋台の下に差し込まれ、慎重に乗せられた。待機していた残る担ぎ手もかき棒の下に入った。決められた所定の位置に着くと、角棒に肩を入れた。  二輪の台車に乗っかった祭り屋台は担ぐというより、バランスを取りながら押したり引いたりして前進する。台車がある間はさほど…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・10

風呂で温もった裸の体に真新しい白サラシを幾重にも巻き付けると、ピシッと身が引き締まる。祭り襦袢を羽織るのは6年ぶりだ。しばらく主人に見捨てられた格好だった、咆哮の虎が威圧的に描かれた襦袢は、久々の日の目に心穏やかではいられまい。兵児帯をきざに右腰に結ぶと、誠は気合を込めて立ち上がった。 「おう!誠やないけ。帰ってきたんかい?」 …
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・10

しかし、五年の隔たりによる距離感は埋まらない。共通する話題はすぐに出尽くした。あの浦島太郎の気分である。  家にたどり着くと、深夜を過ぎていた。酔いが少し残っている。玄関は明るかった。引き戸に鍵はかかっていない。母のやり口だった。 「まあ遅かったのう。それで風呂にすっか?腹は減っとらんか?」  玄関に入ると、母は今から飛び出し…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・9

手に少し力を込めて押した。その体勢を保ったまま、首を捻じ曲げて頭上を見上げた。岩が揺れているかどうかを見極めるには、上空に突き出た松や椚(クヌギ)など雑木が四方に伸ばす枝葉の影が岩の肌に映した動きを見れば一目瞭然だ。無風で枝葉が揺れていれば、間違いなく岩自体の揺れだ。 「あれ?」  そんな馬鹿な!誠の思いを裏切り、枝葉の影はそよとも…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・8

いらだちを覚えたりすると、タロをおともに裏山へ逃避した記憶は鮮明だ。  久しぶりに裏山に登ってみるか。思い立つと、誠はタロのひもを引っ張った。 「クィーン」  こちらを見上げたタロは甘えるしぐさで、誠を誘う。  裏山と言っても、なだらかな道が頂きまでちゃんとついている。今どきの山道はむき出しの石ころ道ではない。かなりな地点まで簡…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・7

 担ぎ手にしても、要となるべき青年は、時代の風潮に違わず、祭りのために仕事を犠牲にするのを嫌う。もちろん村から出て戻らない若者が増加の一途も、担ぎ手の不足につながっている。 すでに引退している中高齢者を担ぎ出さざるを得なくなった。祭りの高齢化は、もはや止めようがない。そんな状況だから、誠のような若いUターン組は大歓迎される。 「お前…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・6

「ほうか。ええ経験したみたいやな。それ聞いたらひと安心や。お前、知っとうか?」  龍は顔も上げずに訊いた。 「なにを?」 「八坂裕子って女の子、覚えとるか?」 「ああ、俺の同級や。みんなの憧れやったなあ」  頭が良くて美人、クラスの男だけでなく先輩や後輩の男連中からも羨望の目で見つめられていた。同性の人気もあって、いつも級長や…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・5

風呂はいい塩梅に沸いていた。東京では銭湯通いで、落ち着いて風呂に浸かれなかった。忘れもしない家庭用の湯船に湯があふれんばかりに満たされている。こぼすのはもったいない。そろそろと湯に体を沈ませた。首まで浸かると、快感がkら蛇十二走る。 「どないや湯加減は?」  焚き口に母がいる。安心感がある。 「いや、よう沸いてるわ」 …
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

1995年小説・帰って来たヒーロー・4

「待っとったんかい、お前」  東京で暮らしていてもわすれたことのない、懐かしい母の声だった。慌てて顔を上げた誠は、えらく膨らんだスーパーの袋を両手にぶらさげた母と真面に向き合った。 「なんや、買い物やったんか。また仕事が忙しいんやなと思うてたぜ」 「アホいいな。お前が帰ってくるっちゅうのに、暢気に仕事しとられんやろが。五年ぶりやで…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

小説(1995年作品)・帰って来たヒーロー・3

京都から新快速で姫路まで。姫路からバスに乗り四十数分揺られれば、誠の故郷に着く。まずは実家へ直行して、五年に渡った東京暮らしのストレスを癒すのが先決だった。仕事は、そのあとでゆっくりと探すつもりでいた。  誠は東京に出る前、現在はSホテルチェーンの新姫路Sホテルに変身している、当時の姫路Lホテルのレストランに勤めていた。誠が東京行…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more