テーマ:文芸エッセー

わが家の内助の功

わが家の内助の功   庭にある柿の木の実が、すっかり色付いて食べ頃になっている。ひとつもぎ取って口にすると、いい按配に熟していて美味しい。 (これなら、お袋やって食えるなあ…)  もう八十を前後する年齢である父と母は、最近入れ歯の具合が悪いと嘆いている。しかし、この熟れた柿なら大丈夫だろう。  二人は昔から柿が大好物である。…
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封印された夢

封印されたもの 「これ、なーに?」  末娘が訊く。倉庫の片付けは半ば。埃をかぶった段ボール箱が、彼女の視線の先にある。  十字に紐で頑丈に結び補強した箱。開けると、出て来た原稿用紙の山。思い切りよく書き殴った鉛筆文字の『生原稿』。  記憶のページをめくるまでもない。決して忘れないものを閉じ込めてある。 「とっても大事なもの…
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こころの風景・1

恋する二人の作戦勝ち  若い頃、付き合っていた彼女の父親は当時国鉄に勤務する堅物で、娘の門限は8時!二十歳を過ぎた彼女にそれはないだろうと思っても無駄なことだった。  レストランの調理場で働いていた私は、大体仕事を終わるのが十時過ぎ。とてもゆっくりとデートを楽しむ時間が取れるどころか、門限を前に顔を見るのもまままならない。  …
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添い寝はお父さんの役目?

 次男坊は四人いる子どもの中で唯一の『お父さんっ子』。次男坊を授かったのは、長年やっていた喫茶店を閉めてしばらく仕事がなかった時。妻は保母として働きに出ていたので、育児が私の手に委ねられた。  オムツ替え、哺乳瓶……なれないことばかりだったが、中でも一番悪戦苦闘したのが赤ちゃんの傍での添い寝。スヤスヤと素直に眠ってくれると御の字だが、…
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いい日、クルージングだー!

12日。胸をわくわくさせながら朝早く家を出た。途中で連れと落ち合って、さあ出発だ!今日は待ちに待った日。何とも刺激も生気もない日々を、一日だけ神様?が変えてくれたのだ。ちょっと大げさだが、一日だけセレブ(?)気分をあじわえそうなのだ。向かうは神戸ハーバーランド、モザイク脇にあるクルージングの乗船場である。K新聞の読者倶楽部Mクラブの検証…
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コラム・7

男が泣くとき  元来、涙もろいほうだから、感動的なテレビドラマを見てはしょっちゅう涙ポロポロで、妻や子どもらに呆れられている。  だから生まれて40数年、限りなく泣いているわけだが、そんな中に強烈な印象で記憶に刻まれている涙がひとつある。  三十三歳にしてようやく漕ぎ着けた結婚式。そして、両親への花束贈呈。その瞬間、見てしまっ…
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コラム・6

史上最大のドジ? 8月29日、ひとつ年上の兄貴が急逝した。まだ3人の子どもは父親が必要な年代なのに、何ひとつ言い残すことなく亡くなってしまった。 「おい、仕事に行ってくるぞ」 と明るく出かけて行った兄貴は、仕事中に事故死してしまったのである。兄貴の仕事は板金業で、建築中の工場の高所から墜落したわけだが、もう20年以上のキャリア…
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コラム・5

結婚式エピソード 「エッ!!?ウッソー、こんなとこでするの?」  友人たちがいっせいに驚きの声をあげた。  豪華な結婚式が普通の時代に、町の集会室での披露宴。料理は仕出し屋さんからの出前。集会室の畳も気のせいかすり減っている感じ。  でもお金のない私たちを配慮した夫のご両親の手配された会場に不満などありません。そして、夫の友…
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禁煙喫茶店の顛末記

禁煙喫茶店の顛末記――鉄則破りの末路?  実は小生、商売の鉄則を逸脱したせいで、8年間盛業を続けた喫茶店を引き継いで、わずか半年で閉めた愚か者である。  その店とは『禁煙喫茶店』。われながら、よく考えた末に始めたアイディア物だと自画自賛で始めたのだが……。  そりゃそうだ。もともと喫茶店とは珈琲をいっぱい、煙草を一服、というと…
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ミニコラム

みずみずしい野菜は誰のおかげ?  わが家の家庭菜園は、この春、妻が、 「自家製野菜で家計を補うのよ!」  とえらく張り切って始めた。が、いつの間にやら、妻はその務めを放棄し、畑を耕し野菜を育てるのは、私の役目になってしまったのだ。  そんな時に限って、酷暑渇水という大変な夏が来るから、オレはついてない。畑の土はカラカラで、野菜を…
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二年目の春ーそして・完結

ところどころでくすぼる土堤を取り囲んで待機していたムラの連中は、頃合いを判断した隣保長の合図で、あらかた焼け終わった土堤の斜面に踏み入った。まだ余熱を残した焼け跡を、長靴で踏み固めると、形を残したまま焼けた雑草は灰になって崩れた。畦焼きはフィナーレを迎えた。 土堤のしたにある凹地に、まだ灯油が満たされたままの青竹が積み重ねられ火が点け…
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二年目の春ーそして・その1

二年目の春―そして  背丈ぐらいに切った青竹の芯を抜いた。二節は抜かないと駄目なので、鉄筋を突っ込んで少し弾みをつけて押し込むと、スポンと気持ちよく抜けた。それを二度繰り返して、やっと出来上がる。  抜いた穴へ灯油を注ぎ入れると、ひとつながりになった竹筒の部分は、かなりの分量が詰まった。次に丸めた古い手拭いを竹筒の先に突っ込み、…
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家族・その1

家 族 「…もしかしたら、今日、付き合ってる女の子、連れてくるかも知れん…」  唐突な誠治の言葉に、飯をよそっていた母親のヤスエは、一瞬キョトンとした。次に苦笑すると、またかと言った風に誠治を見た。 「ほんまの話やで。この春ごろから付き合い始めた相手や。ちゃんと結婚を前提の、真面目な付き合いしてるんや」  誠治はヤスエを納得…
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好きこそものの上手なれ

好きこそモノの上手なれ 病院に着いたのは深夜。母危篤の連絡に取るものも取り合わず車を飛ばしたのだが、結局一時間三十分近くかかってしまった。閑散とした病院の駐車場に乗り入れて、急いで携帯電話を手にした。守衛室に連絡を取った。 「表に回って下さい。いまドアのロックを外しますわ」  何とものんびりした口調だった。しかし、これで病院に入れ…
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コラム4

ニッコリ、車掌さん  幼稚園と小一の子を連れ、二歳の子をだっこして大阪へ夫婦連れで出かけるはめに。夏休みでJRも阪急電車もギュウギュウ詰めで、座れることはまず絶望的でした。  所用を済ませて帰る電車もやはり立つしかなく、その二人の子も、末っ子をだっこし続けの夫も、もう限界の様子で、ハラハラ。  その時です。通りかかった阪急電車…
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コラム2

道の駅 鳥取に父方の親戚がある。周囲を深い山に囲まれた田舎町だった。ちょいちょい用事で出掛けた。峠を越えて山の中を延々と車で走ると、ようやく到着する。途中休憩する施設など皆無で、疲れを抱えたまま往復した。  今は峠を越えずに済む快適な道がついている。そして、路線に道の駅が何か所か出来た。おかげで、楽しみが生まれた。  地元の野菜や…
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雨上がり・その3(完結)

「お父さん。征夫らが帰って来るまでに、機嫌あんじょう直しといてや。せっかく顔見せてくれたんやから、今夜はご馳走作るでな」  兼子は、いつになく高ぶっている。 「煙草買うて来る」  伝吉は一層無愛想になるばかりだった。  雨上がりの道は心地好かった。周辺は未だ開けていない田舎だけに、あのうるさい車も余り通らなくて尚更気持ちが好いの…
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雨上がり・その2

雨は午後になって上がった。厚い雲は跡形もなくなり、青空が随分と広がった。  伝吉の心は一向に晴れなかった。くそ面白くないと言った顔付きで、茶の間のざわめきに背を向けたままである。  兼子は、もう嬉しくてたまらない風で、生き生きと征夫の世話を焼いている。それがまた伝吉には癪に触ってたまらない。  星井理代子という若い女は、征夫と同棲…
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雨上がりその1

雨上がり  こう雨がしつこく続くと、やたら腰や足の関節が痛んで苛立って来る。さすが年齢を感じてしまう。おとなしく引っ込んでいるのが最良の方法なのに、じっとしているのは辛い。  しかし雨では仕事も無理だ。屋内ならまだしも、いま請け負っている仕事は屋根に上がっての作業が中心だ。いくら急かされても、手の付けようがない。ただ我慢、我慢な…
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ゆらゆらゆ~らりゆるぎ岩・完結

リューゴとお父さんは手をつないで『ゆるぎ岩』の前に立ちました。 「リューゴはお父さんよりもいい子だぞ。だから本当は片手でも大丈夫なのに、初めてで緊張したんだろ。うん、大丈夫、今度は揺れるさ」  お父さんはリューゴに片目をつぶって合図すると、大きく頷きました。しっかりと握り合ったお父さんの手の温かさが、リューゴに勇気を与えてくれます。…
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ゆらゆらゆ~るりゆるぎ岩・その3

『ゆるぎ岩』の感触はひんやりしています。それにザラザラしたものが手のひらにくっつきました。 (お願いだよ。『ゆるぎ岩』、揺れてよ。ぼく、ズーッといい子でいたんだから。これからも、もっともっと頑張っていい子になるんだから)  リューゴは自分の手に二倍はありそうな岩肌の手形の枠の中へ手を当てました。 「うん。よーし!じゃあ押してみろ」…
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ゆらゆらゆ~るりゆるぎ岩・その2

お父さんは嬉しそうに説明してくれました。 「お坊さんは村の人たちにこう言ったんだ。この岩は、いい心の持ち主ならば、ちょっと押すだけで揺れるが、悪い心の持ち主は、どんなに力をこめて押そうとも決して揺れない。びくともしないだろうってね」 「フーン。不思議な力なんだ」 「そうなんだ。だから、村の人たちはいつ押しても岩がちゃんと揺れてくれ…
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ゆらゆらゆ~らりゆるぎ岩・その1

ゆらゆらゆ~らりゆるぎ岩    リューゴの住んでいる村は、豊かな山々に囲まれた盆地にあります。春、夏、秋、冬と季節が変わるたびに、いろんな表情を見せて楽しませてくれる、深い森がいっぱいの山々です。その山には、ズーッと昔からある神社とか、伝説の場所とかいろいろあるのです。  リューゴは山の中腹にある『ゆるぎ岩』が大好きでした。小さ…
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周囲からの好意

周囲の好意 「もう限界だな、店を閉めよう」  夫の沈痛な言葉に頷くしかなかった私です。  夫がこの店を始めて一年後に私と結婚、以来八年間夫婦が手を携えて切り盛りして来た愛着の深い店を閉めてしまう話では明るくなれるはずもありません。  夫の体調不安、店の経営不振、三人目の赤ん坊誕生……と正に身動きの取れない状態にありました。こ…
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挫折からの挑戦

挫折からの挑戦  多感な高校時代。希望に胸ふくらませて入学した普通高校を、ある事件を起こして中途退学を余儀なくされた。このことで刻み込まれた挫折感は、改めて受験し直して通学するようになったS工業高校にまで尾を引くはめになった。 クラスメートは一年後輩ばかりで、まるで落第生気分だった。それに学びたくて選んだ電気科ではなかったことも…
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縁あるひとたち・完結

 太吉が長男の忠行の事故死で受けたショックから解放されるまで一年以上かかった。良一は仕事を終えると毎日太吉の様子を見るために家に通った。憔悴しきった叔父を見る度に居たたまれなくなったが。それでも良一は通い続けた。太吉は実の父親以上の存在だったのだ。その叔父がくるしんでいるのを見て見ぬふりなど出来なかった。  太吉がショックから脱した一…
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縁あるひとたち・その2

あれからもう四十年も経った。良一は立派に一人親方で仕事をこなしている。妻と娘二人のしあわせな家庭も得た。そんな今も、あの海老の尻尾に涙の味が加わった記憶が時々よみがえる。 「もうすぐやったな?」  太吉に訊かれて、真一は現実に引き戻された。パチパチと火の粉を勢いよく跳ねながらたき火は燃え盛っている。「いや、建て前はちょっと遅れそうな…
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縁あるひとたち

縁ある人たち  世間は暖冬だ暖冬だと姦しいが、こう朝が早いと結構寒さはきつく感じられる。なによりもたき火が恋しくてたまらない。  浅香良一は、かなり暖房をきつく効かせている軽トラックの運転席を出ると、ブルッと身震いした。バチバチと薪の爆ぜる音が心地よく耳に響いた。良一は足早にたき火のほうへ向かった。 「おはよ…
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ほんの束の間

ハイウェイバスは快調に走った。名古屋に着いたのは夜の十時過ぎ。まだ時間は充分ある。名鉄の駅に急いだ。目的地は東岡崎駅。  定年以来、何とも空しい日々を送っていた私のもとに、一通の手紙が。開けてビックリ!とはこの事だった。 「今回のエッセー下田歌子賞にあなた様の作品が『最優秀賞』に選ばれました」  寝耳に水とも思える朗報だった。賞金…
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誘惑

坂手将太は刺身包丁でマグロの柵をひき続けた。三千台の切り数が必要だった。イカ刺しとサーモンはすでに数を切り終えた。凍えた手は神経がかなり鈍くなっている。  ゾクゾクする。足元から厳しい冷気が伝い上がる。生ものを扱う調理場だった。一年の大半は冷房を効かせた部屋となる。厳冬期はさすがに冷房は止められたが、ストーブなど暖房手段の持ち込みは禁…
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