テーマ:創作小説

大人の手記シリーズ・その2

しあわせは求めよさらば与えられん  短大一年の時、近くの喫茶店でアルバイトを始めました。  マスターは三十三歳で独身、そのうえハンサムでした。面接の時から、私が期待を抱いたのも無理はありません。チャンスだと思いました。だって、仲のいい友達はみな、ちゃんと彼氏がいたのに、私だけいなかったのです。  初日から、挑発的なミニスカート…
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大人の手記シリーズ・その1

社内恋愛は危機管理を!  高校卒業後、働き始めたS書店は、従業員二十人というから結構大きかった。支店も三つあり、そちらも五人ずつ働いていた。社長が女性のせいか、全店従業員三十五人のうち二十八人が女。それも若い子から勤続二十何年のオバさんまで揃っている。  私が配属された店は男性が私を含めて、たったの二人である。しかも相手は五十歳…
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帰郷ーそして何かが・完結

神輿を担ぎあげた誇らしげな男衆らの顔、顔、顔。龍悟は、その目撃者だった。 (時代は変わってるんや。今やったら、オレはオヤジに会える!)  龍悟は口を軽く結んで目を閉じた。 「龍悟。お前が何を考えちょるか、お母ちゃんには分かる」  母は息子の表情のわずかな変化も見逃さない。 「そやけど、世の中、まだまだ甘いことないで。お母ちゃん…
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帰郷ーそして何かが・その6

龍悟は子どもらを理香子に任せて、少し早めに家に戻った。 縁側に母の姿があった。吊るし柿にする小粒の渋柿を丁寧に剥いている。毎年そうやって吊るし柿を作る母だった。 「お母ちゃん」  龍悟は子どもの頃と同じ呼び方をした。母と二人きりの時は、ややもすると出てしまう。甘えん坊の名残だった。 「なんや、お前かいな。えろう早かったんやな」 …
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帰郷ーそして何かが・その5

「おう1落とすなー!」  その時、境内の指定された位置に屋台を鎮座させた各地区の一人が飛び出した。無言である。釣られて二人、三人、バラバラと駆け出した。東畑崎の神輿の傍らで、終戦と目を合わせた。すかさず周旋が頷いた。  彼らは神輿の下がった側の、担ぎ棒の下に潜り込んだ。東畑崎の男衆の間で担ぎ棒に肩を入れた。下がった側が持ち直した。神…
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帰郷ーそして何かが・その4

一番乗りは神社の所在地である清土地区の布団屋台だった。裕福な家が昔から多い地域だけに、この近辺では最も重量感のある豪華絢爛な屋台だった。鋭角に反り上がる布団屋根に取り付けられたカザリ金具(梵天)の黄金色の海老が左右一対に踊っている。高砂の曽根天満宮の祭り屋台を譲り受けたものだった。 芋の子を洗うように練り棒に群がった担ぎ手の男衆の中に…
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帰郷ーそして何かが・その3

清土団地は数年前に清土地区北端にある一角が開発されて、生まれた新しい分譲団地だった。 「どこの誰やら分からんもんが、ようけ越して来よった。清土の家のもんの新宅もあっけど、東畑崎もんも入って来とるわ。もうなんもかんも混じってしもうてからに。時代はえろう変わっちまったちゅうて、みんな嘆いとるわ」  そう龍悟の母は、半分ぼやき口調で話した…
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帰郷ーそして何かが・その2

「どこへ行っとったんやいな?」  灰皿を出して来た母は訊いた。 「うん、ちょっとな。懐かしなって、そこらを歩き回ってた」 「ほうか。この辺りもすっかり変わってしもたでな」  母がちょっと寂しい顔を作った。 「ああ、ビックリしたわ。ちっこい田圃が、みんなドでかい田圃になってしもとんやからな。時代やな。俺の記憶にある故郷なんかかけ…
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帰郷ーそして何かがその1

帰郷―そして何かが  何年ぶりの故郷だろうか?ちょっとした感慨に、沢口龍悟は何尾もとらわれた。  千葉の大学を出て、そのまま先輩の伝手で就職先を現地企業に決めたときから、龍悟と生まれ故郷のK市との距離は限りなく広がり始めた。  もう20年以上になう。結婚もし、既に二人の子どもにも目軍れて、家も千葉に買って落ち着いた。仕事も順調…
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ミニコラム

みずみずしい野菜は誰のおかげ?  わが家の家庭菜園は、この春、妻が、 「自家製野菜で家計を補うのよ!」  とえらく張り切って始めた。が、いつの間にやら、妻はその務めを放棄し、畑を耕し野菜を育てるのは、私の役目になってしまったのだ。  そんな時に限って、酷暑渇水という大変な夏が来るから、オレはついてない。畑の土はカラカラで、野菜を…
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二年目の春ーそして・完結

ところどころでくすぼる土堤を取り囲んで待機していたムラの連中は、頃合いを判断した隣保長の合図で、あらかた焼け終わった土堤の斜面に踏み入った。まだ余熱を残した焼け跡を、長靴で踏み固めると、形を残したまま焼けた雑草は灰になって崩れた。畦焼きはフィナーレを迎えた。 土堤のしたにある凹地に、まだ灯油が満たされたままの青竹が積み重ねられ火が点け…
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二年目の春ーそして・その3

 去年の畦焼き中に腹の痛みを堪え切れず、家に慌てて取って返し便所に飛び込んだ慎三は、この池の土堤焼きに結局立ち会えなかった。 「こいつは慎重にかからにゃヤバいでのう」  慎三の隣にいる初老の男がいった。慎三が見返ると、その気配に誘われでもしたのか、男も慎三を見た。にやりと笑った。 「おまはん、初めてやったのう」 「はあ」 「そ…
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二年目の春ーそして・その2

「わしらもやるか?」 川沿いにある湯口家の田圃は、昨年刈り取ったままに稲藁が散らばっていた。コンバインを導入するまでは、束にした藁を積み上げた坪木の点在した田園風景だった。それがすっかり様変わりして、完全に風情は奪われた。 藁が重宝がられた昔、といっても慎三が子供の頃だから、まだ三十数年しか経っていない。それが、いまや藁は稲刈りの際…
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二年目の春ーそして・その1

二年目の春―そして  背丈ぐらいに切った青竹の芯を抜いた。二節は抜かないと駄目なので、鉄筋を突っ込んで少し弾みをつけて押し込むと、スポンと気持ちよく抜けた。それを二度繰り返して、やっと出来上がる。  抜いた穴へ灯油を注ぎ入れると、ひとつながりになった竹筒の部分は、かなりの分量が詰まった。次に丸めた古い手拭いを竹筒の先に突っ込み、…
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家族・完結

誠治が三千代を送り届けて、再び家に帰り着いたのは、既に真夜中近かった。散らついていた雪も本降りに変わっていて、家の前は白い絨毯を敷き詰めたように積もっていた。  車から出て一歩踏み出すと、ジャクッと鳴った。実に気持ちいい感触が足裏に広がった。  照正とヤスエは、まだ起きていた。客間ですき焼きの残りをつつきながら一杯やっていた。珍しく…
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家族・その3

「ええ具合にたけとるがいな。さすがお父さんや、年季が入っとるで」 ヤスエはケラケラと笑った。まさか年季ですき焼きの味が決まるとは思えなかったが、誠治は父親に感謝した。気のつかぬ家族と勘違いし、腹を立てた自分が恥ずかしかった。 「さあ、顔が揃うたんやで、早速頂こうかいな。誠治、そちらさんにもはよう席について貰うてからに」 ヤスエは性…
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家族・その2

「ほれ、見てみい。無理な事するさかい、こない酷い目に遭うんじゃろが。自分の甲斐性、よう考えなあかんわのう」  傷心の誠治に一層の打撃を与えたヤスエの強烈な皮肉である。  返納された結納品一式は、日の目を見ることもなく田島家の物置に仕舞われたままになっていた。新品のまま中古化運命にあった。  そんな過去があるせいで、ヤスエは誠治の言…
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家族・その1

家 族 「…もしかしたら、今日、付き合ってる女の子、連れてくるかも知れん…」  唐突な誠治の言葉に、飯をよそっていた母親のヤスエは、一瞬キョトンとした。次に苦笑すると、またかと言った風に誠治を見た。 「ほんまの話やで。この春ごろから付き合い始めた相手や。ちゃんと結婚を前提の、真面目な付き合いしてるんや」  誠治はヤスエを納得…
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雨上がり・その3(完結)

「お父さん。征夫らが帰って来るまでに、機嫌あんじょう直しといてや。せっかく顔見せてくれたんやから、今夜はご馳走作るでな」  兼子は、いつになく高ぶっている。 「煙草買うて来る」  伝吉は一層無愛想になるばかりだった。  雨上がりの道は心地好かった。周辺は未だ開けていない田舎だけに、あのうるさい車も余り通らなくて尚更気持ちが好いの…
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雨上がり・その2

雨は午後になって上がった。厚い雲は跡形もなくなり、青空が随分と広がった。  伝吉の心は一向に晴れなかった。くそ面白くないと言った顔付きで、茶の間のざわめきに背を向けたままである。  兼子は、もう嬉しくてたまらない風で、生き生きと征夫の世話を焼いている。それがまた伝吉には癪に触ってたまらない。  星井理代子という若い女は、征夫と同棲…
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雨上がりその1

雨上がり  こう雨がしつこく続くと、やたら腰や足の関節が痛んで苛立って来る。さすが年齢を感じてしまう。おとなしく引っ込んでいるのが最良の方法なのに、じっとしているのは辛い。  しかし雨では仕事も無理だ。屋内ならまだしも、いま請け負っている仕事は屋根に上がっての作業が中心だ。いくら急かされても、手の付けようがない。ただ我慢、我慢な…
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ゆらゆらゆ~らりゆるぎ岩・完結

リューゴとお父さんは手をつないで『ゆるぎ岩』の前に立ちました。 「リューゴはお父さんよりもいい子だぞ。だから本当は片手でも大丈夫なのに、初めてで緊張したんだろ。うん、大丈夫、今度は揺れるさ」  お父さんはリューゴに片目をつぶって合図すると、大きく頷きました。しっかりと握り合ったお父さんの手の温かさが、リューゴに勇気を与えてくれます。…
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ゆらゆらゆ~るりゆるぎ岩・その3

『ゆるぎ岩』の感触はひんやりしています。それにザラザラしたものが手のひらにくっつきました。 (お願いだよ。『ゆるぎ岩』、揺れてよ。ぼく、ズーッといい子でいたんだから。これからも、もっともっと頑張っていい子になるんだから)  リューゴは自分の手に二倍はありそうな岩肌の手形の枠の中へ手を当てました。 「うん。よーし!じゃあ押してみろ」…
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ゆらゆらゆ~るりゆるぎ岩・その2

お父さんは嬉しそうに説明してくれました。 「お坊さんは村の人たちにこう言ったんだ。この岩は、いい心の持ち主ならば、ちょっと押すだけで揺れるが、悪い心の持ち主は、どんなに力をこめて押そうとも決して揺れない。びくともしないだろうってね」 「フーン。不思議な力なんだ」 「そうなんだ。だから、村の人たちはいつ押しても岩がちゃんと揺れてくれ…
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ゆらゆらゆ~らりゆるぎ岩・その1

ゆらゆらゆ~らりゆるぎ岩    リューゴの住んでいる村は、豊かな山々に囲まれた盆地にあります。春、夏、秋、冬と季節が変わるたびに、いろんな表情を見せて楽しませてくれる、深い森がいっぱいの山々です。その山には、ズーッと昔からある神社とか、伝説の場所とかいろいろあるのです。  リューゴは山の中腹にある『ゆるぎ岩』が大好きでした。小さ…
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周囲からの好意

周囲の好意 「もう限界だな、店を閉めよう」  夫の沈痛な言葉に頷くしかなかった私です。  夫がこの店を始めて一年後に私と結婚、以来八年間夫婦が手を携えて切り盛りして来た愛着の深い店を閉めてしまう話では明るくなれるはずもありません。  夫の体調不安、店の経営不振、三人目の赤ん坊誕生……と正に身動きの取れない状態にありました。こ…
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挫折からの挑戦

挫折からの挑戦  多感な高校時代。希望に胸ふくらませて入学した普通高校を、ある事件を起こして中途退学を余儀なくされた。このことで刻み込まれた挫折感は、改めて受験し直して通学するようになったS工業高校にまで尾を引くはめになった。 クラスメートは一年後輩ばかりで、まるで落第生気分だった。それに学びたくて選んだ電気科ではなかったことも…
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縁あるひとたち・完結

 太吉が長男の忠行の事故死で受けたショックから解放されるまで一年以上かかった。良一は仕事を終えると毎日太吉の様子を見るために家に通った。憔悴しきった叔父を見る度に居たたまれなくなったが。それでも良一は通い続けた。太吉は実の父親以上の存在だったのだ。その叔父がくるしんでいるのを見て見ぬふりなど出来なかった。  太吉がショックから脱した一…
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縁あるひとたち・その2

あれからもう四十年も経った。良一は立派に一人親方で仕事をこなしている。妻と娘二人のしあわせな家庭も得た。そんな今も、あの海老の尻尾に涙の味が加わった記憶が時々よみがえる。 「もうすぐやったな?」  太吉に訊かれて、真一は現実に引き戻された。パチパチと火の粉を勢いよく跳ねながらたき火は燃え盛っている。「いや、建て前はちょっと遅れそうな…
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縁あるひとたち

縁ある人たち  世間は暖冬だ暖冬だと姦しいが、こう朝が早いと結構寒さはきつく感じられる。なによりもたき火が恋しくてたまらない。  浅香良一は、かなり暖房をきつく効かせている軽トラックの運転席を出ると、ブルッと身震いした。バチバチと薪の爆ぜる音が心地よく耳に響いた。良一は足早にたき火のほうへ向かった。 「おはよ…
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