愛犬効果

いよいよ八十が視野に入った誕生日、我が家に新しい家族がやってきた。真っ黒い毛玉と見間違いかねない子犬である。
「甲斐犬は猟犬なのよ」
 誕生祝だと、娘は得意げに吹聴した。
「お父さん犬好きだったでしょう」
 十数年前、愛犬の臨終を見送ってから、ペットロスめいたものを味わい「二度と犬は飼わないと愛犬断ちを誓った。子供のころからいつも愛犬が傍にいる環境だった。家庭を持ってからも愛犬を手元に置く瀬克だった。
 最後に見送った愛犬は一匹ではない。家族三匹をジユン繰りに見送ったのだ。ともに暮らして16年から17年、老衰死だった。寝たきりになった犬たちを介護、床ずれをしないように何度も体の位置をかえてやったのを忘れられない。
 父親が愛犬にそそぐ愛情をまじかで見て育った娘は、犬断ちをした父親を気にかけていてくれたのだ。
「少なくとも八十までは元気でいてほしいもん」  
したり顔の娘はちゃんと計算をしていた。犬の寿命を16年と考えれば、主人の私が面倒を見る責任で、八十までは元気でいなければいけないらしい。
「お前な」
 余計なお世話だといいかけたのを遮られた。子犬がふれていた手を噛んだのだ。甘噛みだが、まだ加減を知らない噛み様だった。ふいになつかしい記憶がよみがえった。
「お父さん、目が線になってるよ。もう見てられない」
「やかましい」
 口とは裏腹に顔がほころぶのを止められなかった。
「一緒に生きていくか」
 子犬に語り掛けると、首をかしげて見上げた。思わず抱きしめた。娘のお節介に感謝しながら八十の大台を視野に入れた。
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