現実と希望

葬儀の日。
控室に集まったわが家族。
5年ぶりに顔を見る長男を
囲んだ妻と娘ふたり。
漏れ聞こえる話題は、
「お兄ちゃん、恋人は?」
思わず耳を澄ませた。
「結婚なんて面倒くさいわ。
それに忙しいから出会いはないもん」
5年前に結婚を全否定した長男。
確か37になったはず。
「兄ちゃんかて恋人は折る」
(ん?)
耳に神経を集中させる。
長男が口にしたのは、
「恋人はいるが、結婚する気はない」
(ガクッ)
とはいえ、
人並みに恋をしていると知り安堵を覚える。

通夜の跡に家に落ち着いた長男の言葉を思い出す。
「もう帰らへん。戻ってきたら負けたことになる」
これまたがっくり来る言葉だった。
コロナで50億の損失を出した居酒屋チェーンで働いている。
「いくとこまで行ってみる」
半数以上の社員削減の中、残って頑張っているらしい。
それは長男が選択する生きざまである。
負けて帰ってこないという長男の決意は本物と感じた。
親としては喜ばしい限りだが、
半面寂しい。
大変な時は頼ってくれと思っている。
だからこそ、
田舎の家をしっかりと守っていけるのだ。
長男がいつでも戻れる場として。
「家は自分のために建てるんやない。息子らのためやからな」
亡き父はそう言ってのけた。
ブリキ職人の父と大工の従兄、
そしてわたしの三人9脚で建築に取り組んだ我が家。
それは長男のためだった。
しかし巣立った長男は歯牙にもかけていない。

コロナの影響で先行きはどうなるか分からないが、
長男は男としての覚悟を親に見せた。
大学を卒業した後、別の大手外食チェーンに就職したものの、
3年で挫折して家に戻ってきた。
ラーメンチェーンでアルバイトをした後、
就職したのは大手の居酒屋チェーン。
「もう負けへん」
そして、名古屋から静岡の各店舗の店長として転勤、
途中入社5年でエリア長に昇格した。
マグロの解体免許まで習得したと聞いて驚いた。
新店舗出店のプレゼンも面白いという長男に、
彼の覚悟と見た思いがしていた。
それはコロナを前にした今も、
びくともしないものらしい。

息子に見捨てられた現実(?)は受け入れ、
いつかを期待して
長男の家を守っていこうと、
改めて誓った。
img023.jpg花盛りあ.jpg花盛りか.jpg