父の納棺日。
清拭と末期の水の儀式に参加した。
そして死に装束を整えて納棺へ。
棺に落ち着いた父の顔を見つめていると、
不意に涙が……。
寡黙で生真面目過ぎた父。
人見知りの激しい私と滅多に話したことはない。
言葉で話さなくてもわかり合えたと思う。
無口の分、父の思いやりがモノを言った。

二十代の私が失恋と失職が重なり打ちのめされた時だった。
長い時間近辺を彷徨した末に、
どこも頼るところもなく、
足はやはり実家に向いた。
真夜中近くに実家の前に辿り着いた。
玄関には明かりがついたまま。
吸い込まれるように明かりへ急いだ。
「ガラリ」と玄関が。
そこには父が立っていた。
日頃から近づきがたい存在の父の登場に立ち尽くした。
「風呂湧いとる」
それだけ言うと、父はくるりと踵を返した。
誰もいなくなった廊下を渡り風呂場へ。
当時はマキで沸かしていた風呂。、
気持ちいい湯加減だった。
父は私が帰う時間を見計らって沸かしてくれていたのだ。
風呂に浸かると、煩わしいことが解けて流れた。
「食え」
風呂から上がった私の前にに父は丼鉢を置いていった。
そして父は奥の間に消えた。
即席ラーメンだった。
作りたてのラーメンに生卵がトッピングされていた。
殆ど料理をする姿を見たことがない父の作ったラーメン。
湯気の立つ暑いラーメンは実にうまかった。
万事心得た父の思いやりが隠し味だった。
父が漏らした二つの言葉。
ぶっきら棒そのものだが、
わたしにはちゃんと伝わった。
ずるずるすすっているうちに涙が生まれた。

私と父の会話は、
「あ」「い」「う」「え」「お」で事足りていた。
ケッタイな父と息子の日常が、
その夜だけ変わったのを思い出す。
誰にも分ってもらえないだろう。
私と父のサイレント絆を。(笑)

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