救いの手

波乱万丈の人生だった!知人にどや顔で伝えてしまうほど、思い込みは強い。
 社会人になるまで続いた人見知り。親兄弟にすら自分をさらけだせない酷さだった。当然友達はひとりもいない。根暗で影の薄い私に、教室は苦痛に苛まれる場でしかなかった。
 学校が嫌な子供に救いはない。成績もどん尻近くをのたうった。今なら引きこもって父不思議ではないのに、当時の田舎家に子供が逃げこめる居場所はどこにもなかった。
 いやいや通う学校で、偶然図書室にであった幸運、誰かれに気兼ねの必要なく、本の世界にのめりこんだ。図書室が唯一無二の居場所になり、本は親や先生、友達として、孤独を癒してくれた。
 無事に社会人となったが、独りぼっちは変わらない。うつうつと過ぎていく日々に、しょっちゅう現実逃避を考えた。社会に居場所がないと絶望を覚えるまでになった。
「齋藤さん、今度のお休み助けてください。 
「助けてって、どういうこと?」
 職場で二年後輩の若い女の子だった。仕事以外に女性と話すことは珍しい。相手が後輩だったので、さほど意識しなくて済んだ。
 よくよく聞いてみると、隣町の夏祭り「浴衣まつり」に同行してほしい旨だった。旧友が男友達を連れてくるからという。(だけどなぜ?僕に)の疑問に「仕事に真面目な取り組みされている先輩だから、お願いしても大丈夫だと思って」どうやら安全パイに見られたらしい。それでも心地よかった。
「面白くない男だけど、構わないの?」
 向けられる彼女のにっこり顔が全てだった。
「会社の先輩、よくして貰ってるひとよ」
 旧友に話す物静かな彼女の言葉は面映ゆかったが、それ以上に喜びがあった。
 バラが咲いた瞬間だった、生真面目に働くだけの根暗な男の独りぼっちはあっけなく終わった。あの日から五十年、妻として彼女は私の日々をバラ色に染め続けてくれている。
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