アナログの愚行

四十代半ば、弁当会社で働いていた時、製造データーなどがデジタル化に。データーの出し入れは見様見真似でなんとかなった。
「パソコン使えるんやね。すごい」
 職場の中でもパソコンを使えるものは少なかったせいで、特別な存在に祭り上げられた。内心ひやひやものだった。パソコン操作を基本から学んだ経験はないし、キーボードの操作以外は完全にお手上げ状態だった。
 数年前に新し物好きが高じて、文章を打つのにワープロを個人的に購入している。おかげでキーボードは何とか打てるし、仕事に使うパソコンは、単純な操作だけで済んだ。
「Sさん、これパソコンで処理してよ」
「おかげでパソコン怖いことないわ」
 職場の同僚はアナログ派。彼らに褒めそやられて、すっかり調子に乗ってしまった。
「この文章、ワードで打てるやろ」
 上司の依頼に頷いたのが間違いのもと。ワードはワープロではない。ワープロとはまるで勝手が違う。パソコンを前に面食らった。
 頭が真っ白になってしまった。日本語入力の方法すらわからない。結局、マウスに置いた手は動かせなかった。時間がかかるのに業を煮やした上司に、いわずもながの愚かな弁解をしてしまった。「機種が自分のものと違うので」と言葉を濁し、上司を呆れさせた。
 知ったかぶりが通用しない現実を思い知らされ、恥ずかしくて立ち直れずにいた私。
「知らないことで失敗するのは当然やろ。知らなかったら知る努力をすることが大切なこと。努力をすればだいたい何とかなる」
 見かねた上司の助言は、落ち込む私にひとすじの光を与えてくれた。
 パソコンの取り扱い解説本を買い、教室にも通った。かなり時間はかかったものの、アナログ人間のデジタル化に成功した。
 あれ以来、知らないことやわからないことを突きつけられると、引き受ける前に懸命な予習を重ねるようにしている。