若気の至り

小さい頃、
本が大好きで、
大人の雑誌まで読みふけり、
親を呆れさせた。
いわゆる活字世代の一員である。
本好きが募り
自分の本を作り始めた高校時代。
ガリ刷りを知り、
刷り台やロウ原紙、
鉄筆の謄写版セットを購入するほど
夢中になってしまった。
インクまみれで刷り上げた
わら半紙を重ねて閉じ
「僕の本だ!」と得意顔で披露。
そのインクのにおいにうっとりしてしまう、
変わった子供だった。
 社会に出て就いた仕事は、
書店の店売員。
面接で「本が好きだから」と
臆面もなく言ってのけた私。
納品された新刊本を
店頭に出す日々が始まった。
製本された書物の魅力に、
お粗末なわら半紙本の
出番はなくなった。
 本格的な印刷を知ったのは、
アマチュア劇団を始めたからだ。
それまでのように
誰かが印刷したものと
接するのではなく、
自分で企画構成の印刷物が刷
り上がる喜びがあった。
印刷の醍醐味に
虜となったのである。
(すごい!印刷ってすごい!)
 思わず卒倒しそうになる、
自分が構成した
チラシやパンフレットの完成品を
手に取る瞬間。
手書きのカナ釘文字ではなく、
活字と写真、
イラストの組み合わせが刷り上がり、
持つ手が震え、
胸が打ち震えた。
劇団に関わった四十年余り、
印刷物の構成をし続けた。
いつしか版下を作成するまで
のめりこんだのだ。
 劇団を引退後は
印刷の醍醐味に接する機会は
一切なくなった。
しかし活字世代は諦めが悪い。
新聞や雑誌に投稿、
活字になる快感を味わい、
ついに生きがいとしてしまった。
「あなたの作品は
いい本になりますよ」
 数年前、
自費出版を思い立ったが、
出版にかかる費用を前に頓挫した。
とはいえ
夢は捨てるまでに至っていない。
活字本の魔力に
取りつかれた半生が
、そう簡単に変われるはずはない。
新刊本のにおいと、
自分の作品の活字化が
くれた興奮と感動。
一度味わってしまっては、
諦めるなど出来ない。
私を虜にしてしまった、
本と印刷は
憎いやつらである。
img034 (548x800).jpg
0

この記事へのコメント