恋の記憶

 喜ぶ顔が見たいなあ。その思いだけで遂に買った絵本。とても大切なお土産だった。
遠出が億劫な私、いわさきちひろ美術館を訪れたのは奇跡といっていい。だいたいちひろの絵本どころか、巷で評判の絵本すら興味が湧かない無粋極まる中年男だったのだ。
絵本を読めと薦めたのは、趣味のグループにいた女の子で保母さん。いつもしかめっ面で黙々と趣味に打ち込む私を見かねたらしい。
「心があったかくなるから、これ読んで」
 少女の願いを無視しないのが中年男。「おおきなかぶ」と「おおきな木」のページを開いた。(こんなもの……?)が(これは!)に変わった。一度で読み終わるものが、二度も三度も。絵本の魔力のとりこになっていった。
 少女と中年男をつなげた絵本。ひと回り以上の年齢差という垣根を易々と壊した。絵本をダシに二人の時間はしだいに輝きを増した。
 ちひろの絵本は特別らしく、必ずほかの絵本と一緒に少女は薦めた。おかげでいわさきちひろは私を魅了した。
 東京の友人を訪問するとき、当然のごとくいわさきちひろ美術館が頭に浮かんだ。(行ってみよう!)内心、少女と手をつないで行きたかったが、初心な中年男に告白する勇気はない。友人と遊んでくると告げ上京した
 ちひろの絵本ではない。私の代わりに告白してくれる絵本を紀伊国屋で手に入れた。
『しろいうさぎとくろいうさぎ』に込めた思いは届いた。少女は私の妻になった。
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