余生を歩く

定年退職して、
しばらくすると、
「ハッ!」と気づいた。
何にもないのだ、
自分のすることが。
したいことも…ない。
家でゴロゴロも、
長くなると飽きるし、
家族の嫌みを
聞き流しながらで、
空しいだけだ。
(これは大変だぞ。
まだ十年以上も
生きていかなければいけないのに、
どうする?)
 ふら~っと家を出た。
目的もなく歩いた。
いつの間にか
辿り着いたのは……。
 廃止寸前まで追い詰められながら、
図太く生き残った
国鉄赤字ローカル路線。
今は北条鉄道に変身して
一時間に一本
レールバスを走らせている。
その始発駅、
北条町駅の駅舎だった。
高校の通学や
勤め始めた加古川へ行くのに、
毎日利用した駅舎は、
もう跡形もない。
立派なビルになっている。
 ふと思いついた。
学校につながる
乗り継ぎ駅まで
五つの小さい駅がある。
その駅舎は
どうなっているだろうか?
懐かしい思い出を
追っかけ巡ってみよう!……かと。
 線路に沿って歩いた。
田園地帯のど真ん中を
縦断するレールバスの軌道の側道や、
農道、あぜ道…と、
その場任せで歩いた。
 時々レールバスが
一両仕立てでとことこと走る。
のんびりした風景が続く。
いつしか
心は穏やかな癒しを
手にしていた。
 北条鉄道の終着駅、
粟生駅に辿り着いた時、
わたしが
余生の日々に感じた焦燥感は
微塵もなかった。
胸を張ると、
生きている実感があった。
晴れ晴れした気持ちは
いつ以来だろうか。
プラットホームに
レールバスが到着すると、
ぞろぞろと乗客が降り立った。
学生の姿がかなり目立つ。
わたしが通ったように
彼らも頑張っている。
あの頃の記憶が
鮮やかに蘇る。
あの日以来、
ローカルトレイン北条鉄道の
沿線ウォークは、
今も続いている。
生きることで
あくせくする日々のストレスを
忘れさせてくれる。
四季折々の魅力を
惜しげもなく楽しませてくれる、
何とも贅沢な散歩である。
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