名人凡人

 十二月三十日。
朝から
実家で恒例の餅つきが始まる。
餅を搗くのは男。
洗米と蒸すのは女。
丸めるのは私の父と
役割が決まっていた。
「ええか。
餅を丸めるのは
コツがいるんじゃ」
 口だけではない。
父の手捌きは
家族が真似のできない器用さで、
あっという間に丸まる。
しかも出来上がりはプロ級。
他の家族ではいびつな形が殆ど、
餅肌にもならない。
 主役だった父は
五年前に丸め役を引退した。
九十を迎えた父に、
搗き上がった餅の塊を
小分けする力はなくなった。
餅をちぎるのは、
かなり握力がいるのだ。
「餅をちぎれんようになったら
お役御免じゃ」
 いつも口癖にしていた通りの
結末を迎えた。  
 あれ以来、
餅の丸め役は
家族が交代でやっている。
懸命に取り組むが、
実に難しい。
大きかったり小さかったりで
形もいびつ。
それはそれで
楽しくはあるのだが。
餅つきは今も、
巣立った家族が
年に一度、
絆を確認する
大切で楽しい行事なのである。
 



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