ちょっとしたこと

「おい、
千円貸してくれ」

 頂戴と言わないのが、
ギリギリのプライド。

「何に使うの?」

 そうは問屋が卸さない
妻の尋問が始まる。

「孫が来るんやないか。
なんか買ってやるよ」

 それでようやく
千円札を押し頂ける。

 定年退職して以来、
一変した小遣い事情。
 現役のころは月一万円。
煙草も酒もやらないし、
別に女遊びも縁がない身では、
多いくらいだった。
それでも
政治家の政務活動費と同じ、
使い切る。
残れば減額されるとの
猜疑心が働いたからだった。
それを妻は見逃さない。

「残ってないの?
もう無駄使いしたんでしょ」

 それは妻の監査を通るのは
大変なのだ。

 退職すると
それに輪がかかる
妻の対応。
家用に必要な買い物は
カードで。
それも逐一
報告を求められるが、
家計の主には
逆らえない。

「よかったね。
じいじが買ってくれたんだよ」

 孫に話す娘の姿に
満足満足。
まずは達成感。

 さあ、
またいい理由を
考えておくかな。
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