ふるさと

「ここの神社は
この辺りでは
一番大きいんですよ。
古くて由緒ある……!」

 近づくにつれて
饒舌になる。
いつもなら話しかけられても
「あ」「う」「え」「お」で済んでしまう
無口で人見知りな性格なのに、
この変化には
自分でもいささか驚いた。

 地域のウォーキングイベントは
真夏を除いて、
市内各地の遺跡名所めぐりの形で
毎月行われている。
このウォーキングのおかげで、
知らずにいたふるさとの姿を
じっくりと体験できるという
有難いイベントだった。

 ただ自分が生まれ育ち、
今も住んでいる地域が、
スタートして五年も経つ
ウォーキングのコースに
取り上げられないのが不満だった。
豊かな山に囲まれた盆地で、
歴史ある神社や
『揺るぎ岩』『鏡岩』などの
名所もある。
数年前には荒廃が目立った
山の整備が実施され、
立ち枯れた赤松は伐採され、
山裾にそって
『歴史の小道』が
切り開かれた。
旧跡、名所めぐりのできる
遊歩道である。

 さっそく
自分の足で歩いてみて、
誇っていい
豊かな自然と名所に
恵まれているのを実感した。
あまりに身近すぎて、
その魅力に全然気づかずに
暮らしていたことを
反省した。

「森に囲まれた歴史の道、
いい風景でしょ。
小道の脇を流れている
川のせせらぎや小鳥の鳴き声に
心が癒されること
請け合いしますよ」

 立て板に水だった。
次から次へと
今回歩く
ウォーキングコースの魅力が
口をついて出た。
参加者は六十五名。
あまり知れ渡っていない
コースにしては、
かなりの参加者だった。

 神社で昼食を楽しんだ。

「この神社の秋祭りには、
近在の氏子が
四基の祭り屋台と
神輿二基を巡行させて……!」

 弁当を食べる間も惜しくて、
誰彼を捕まえては、
神社の由来や行事を説明した。

(あれ?)
説明しながら頭に浮かんだのは、
(僕って
こんなに詳しかったっけ?)
との疑問だった。
少し前までは
よその人だったのだ。

 学校を出ると
すぐ町に出た私。
ふるさとへUターンしたのは、
四十過ぎてからだった。
一番多感で
知識欲旺盛な青年期を送ったのは
ふるさとではなかった。
ふるさとの記憶も
薄れるに任せていた。
「ふるさとは
遠くにありて思うもの」
などと言われるが、
よくよく考えてみれば、
「ふるさとは
そこにありてこそふるさと」
なのではなかろうか。
いま私は
生まれ育った地に戻った。
それが
昔の記憶を克明に蘇らせ、
他人に詳しく説明できるまでの
原動力になっている。
奇跡に近かった。

「いやあ、
いいコースだったよ。
こんないいところに住めるなんて
最高の贅沢だな」

「さすが
現地のひとだけあって詳しいね。
説明に思いが溢れてたよ。
生まれ育ったところが
大好きなんですね」

 図星をつかれた。
私自身、
このウォーキングで、
生まれ育った地を
自分がどんなに愛し、
大事に思っているかを
再確認させられたのだ。

 帰り道、
思わず振り返った。
豊かな
緑映える山並みが
「どうだい!」と
胸を張っていた。
画像

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