今日という日 /記憶の風景・新米その2

大忙しの一日。

午前中に野菜と花の苗を

妻と娘が買ってきた。

アルバイトでためたお金で買った

「母の日のプレゼント」らしい。

しかし

父の日はどうなっているのだろう?(笑)

木を植えるのは私の役目。

サクランボの木が半額で買えたらしい。

ほかの花は

一度聞かされたが

その名前は

もう頭には残っていない。(笑)

しかし

のんびりしていられない。

今日は

加西市民会館へ。

クラシック鑑賞の予定が入っている。

管弦楽団ストリングスの公演だ。

ジェニファー・ギルバートさんの

バイオリンソロ演奏がプログラムされている。

期待いっぱいで急いで出かけたのだった。



きのうの続きです。

商品棚に並ぶ飲料より、箱積みの特価品や売れ筋商品が嘘みたいに売れるのに驚いた。

 売れ筋の商品は本部任せでなく、店頭スタッフの判断で特別発注する。判断を誤ると山積みの在庫を抱えてしまうはめに陥る。逆に控え過ぎれば、欠品にひやひやドキドキさせられる。根が小心者には不向きな仕事だった。

「紅茶はどれがよう売れとるんかいな?」

 商品棚の補充に汗を流している背後から声がかかった。どんなに作業中でも、お客さん優先である。慌てて振り返ると、見知った顔が笑っている。前の職場で無駄口を叩きあいした同僚だった。定年後も会社に嘱託で残り、引き続き同じ現場で勤務しているらしい。

「ビックリしたなあ。いま帰りですか?」

「よそよそしい口やなあ。ため口でええがな。きょうは夜勤やさかい、これから出勤や」

「おんなじ仕事ですか?」

「給料は少のうなってもたけどなあ。しゃーないわ。働かな、干上がってしまうよって」

 同僚の変わらぬ冗舌に(ホッ)と気が緩む。

「あんたもえらい気張ってるみたいやないの」

「慣れんこっちゃで、もう気が抜けへんねん。前の仕事のほうが楽やわ、やっぱり」

 いつの間にかタメ口になっている。

「頑張ってや。その臙脂の前掛け、よう似合うとるし、若返って見えるで。羨ましいのう」

「アホ言わんとき。ほいでも嬉しいやん。そない褒められたら、頑張るしきゃないがな」

 ひとしきり笑いあうと、同僚は紅茶のペットボトルを手にして去った。

「まだ済まへんの。ちょっと時間食いすぎや」

 Sさんの小言に捉まった。加工食品全般を差配するベテランパートとしては、定年退職してきた新米の仕事ぶりが気になって仕方がないのだろう。似た年代だが、この職場ではかなりの先輩になる。まあ当然の態度だった。

「飲料だけでええんちゃうで。ほかの棚も待っとるし。加工食品のスタッフなんやからね」


「済んません。はよ慣れますよって」

 これまでやったことのない仕事を、六十男がイチから覚えるのだ。時間がかかって当たり前である。ムカッとするが、それをおくびにも出さず、にこにこと対応できる年なのだ

「あんた」

 棚に並ぶ菓子の賞味期限を確認作業する手を止めさせたのは、あの品のいい男性だった。

「孫にお菓子を買うたろ思うんやけど、最近の子ら、どないなんが好きなんかいな?」

 いつも口をへの字に曲げた不愛想極まる顔がニヤケている。さすがに孫のことになると人並みのおじいちゃんになるようだ。

「ん?……そうですね……」 

商品棚を見まわしたが、まだ湯気の出ている新米には難題だった。棚にズラーッと並ぶ菓子は、みな同じにしか見えない。

「……あーと、あのう、少々お待ちください。担当の者と代わりますので」

 急いで日用品売り場に急いだ。棚を整理しているSさんは……いた!小太りの後ろ姿が目に入った。頼れるのは彼女だけである。

「どうしたん?」

 気配に気づいたSさんが振り返り、先に訊いた。さすがベテラン、油断がない。

「お孫さんにお買い求めになるお菓子のご相談なんですが……?あの内科の先生です」

「わかったわ」

 一を聞いて十を知るだった。Sさんは素早い身のこなしで菓子売り場へ向かった。(あんなふうに俺もなれるかいなあ?)暢気なものだ。場違いな思いでひとりごちた。

 菓子売り場に戻ると、男性客は菓子の袋を三つばかりかごに入れレジへ向かっていた。Sさんはその後ろ姿に頭を下げたままだった。

「Sさん。ありがとうございました」

「ええのええの。いい対応だったわよ。花丸あげる。でも、早く商品を覚えなくちゃーね」

 冗談が出るほど、えらく機嫌がいい。男性客が予想以上に好反応をみせたのだろう。

「頑張ります。はよう覚えな仕事になりませんもんねん」

「そうやで。ようわかってるやないの」

 案外いい人なんだと見直した。これまでは『イケズ女』のイメージだったのに、眼鏡の丸顔がなんとも可愛く見える。

 朝出勤すると、バックヤードへスタッフ全員が集合する。朝礼で気合が入った後、納品された商品の検品で仕事は始まる。

「これなによ!」

 Sさんが素っ頓狂な声を上げた。

目の前に並んだ運搬カートいっぱいに山積みされているのは、五百ミリリットルのペットボトル。詰められた段ボール箱が十ケース、ひとケース二十四本入りだから二百四十本の勘定だ。それが売れ筋とは程遠い商品なのだ。

「誰?発注したん?」

「……僕です」

「お客さんから聞いてる注文なの?」

 そうだったらどれほど救われるか。しかし現実は無情でしかない。

「スキャン間違い……です。隣のペットボトルのバーコードをスキャンしたような……」

 その場はシーンと、凍り付いてしまった。                                 (続き)
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