おい、おい、老い!・7

思わず吹き出した。

思い出したのだ。

お尻を洗ったら,ドバーっとウンチをやられた記憶は鮮明だ。

娘が二回、息子も数回、風呂にウンチをぷかぷかと浮かべた。

慌てて妻を呼びつけ、洗い桶を使い灰汁取りの要領で掬わせた。

洗い終わると、湯面を泳がせる。

赤ん坊は目を閉じて気持ちよく身をまかせている。

安らかな表情にしばし見惚れた。

やはり天使だ。

 ガラッと浴室の引き戸が開いた。

「いつまで、何しとんのん?

こっちは忙しいんやで。

することなんぼでもあるんやさかい」

 妻の毒舌と、にやけた表情が一致しない。

 深夜。

リビングでテレビを楽しんでいると、長女が覗いた。

胸に赤ん坊を抱えている。

「泣いて寝やへんねん」

「夜泣きか。

よっしゃ、おとうさんがあやしといてやるさかい、少し寝えや」

「うん。

ほなら、お願いできる?」

 よほど眠いのだ。

赤ん坊を託してそそくさと寝室へ去った。

信頼してくれている。

父親冥利に尽きる瞬間だった。

「……か~ら~す~、なぜなくの~~♪

からすは、や~ま~に~♪」

「七つの子」は、二十年以上前、わが子らに歌った子守歌である。

 真夜中も子守歌は流れ続けた。

「ほな帰るね。

また来るよって」

「ああ。

待ってる」

「無理せんでええからな。

向こうの家の方を大事にせなあかんやろ」

 また妻の横やりが入った。

父と娘のコミニュケーションを邪魔する。

それは違うだろといえるはずはない。

しかも表情は、長女に変だと悟らぬように、柔和さで取り繕う。

「それじゃ、お世話になりました」

婿が生真面目に頭を下げた。

「また来いや。

うまいもん食わしたるさかい」

「うん!」

 長女の家族を乗せた車は家を離れた。

 翌日、昼過ぎにISスーパーへまた向かった。

長女が帰って、妻は仕事。

末娘は大学に行っている。

日がな一日、家でひとり留守番をするほど、まだ年寄りじゃない。

売り場に回ると、レジ前に設けられた休憩スペースのソファーに座った。

慌てることはない。

時間はたっぷりある。

(いた!)

 七番レジに彼女はいた。

がっしりした体格が目立つ。

顔はお世辞にも十人並みとはいいがたい。

年齢はいまだ知るすべもないが、哲郎より三十ほど若いのは確実だ。

「早いのう」

 辻本だった。

同年輩のISスーパー仲間で、小柄な男だ。

植木屋を一人でやっている。

「今日は、仕事、休みか?」

「午前中で済ましたわ。

えろうてなあ」

「年やのに、そない頑張らんでええがな」

「仕事せなんだら、お得意さんも困るやろが。

そいにわしが食えんようになってまうがい」
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