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zoom RSS 1995年小説・帰って来たヒーロー・11

<<   作成日時 : 2016/05/03 00:47   >>

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太鼓蔵から曳き出された屋台は、囃しと太鼓を打ち鳴らしながら、素早く二輪の台車が屋台の下に差し込まれ、慎重に乗せられた。待機していた残る担ぎ手もかき棒の下に入った。決められた所定の位置に着くと、角棒に肩を入れた。

 二輪の台車に乗っかった祭り屋台は担ぐというより、バランスを取りながら押したり引いたりして前進する。台車がある間はさほど頭数は要らない。青年だけで何とかなる。宮入宮出の奉納練行は総出で差し上げなければ上がらない。それまでの練行はぞろぞろと屋台について回り、晴れの舞台に力を蓄えて置くのだ。

 昔は町内の練行も男衆が担ぎ上げて歩き回ったという。もう伝説である。足腰の強靭さは超人的だったと思える。

 屋台の後を金魚の糞よろしくくっついて歩くのは五十台が殆どだ。祭り襦袢の着こなし姿も、妙に貧相に見えるのは気のせいか。そぞろ歩く姿は窓際族そのものだった。氷見兄弟は、心ならずもその窓際族の一員で、列に連なっていた。

「おい、誠。もう覚悟決めて、ここへ定着せいや。新宅出すのん、ちゃんとしたるがい」

 兄の龍は真面目な顔になって訴えた。誠は返答する代わりに、笑ってごまかした。まだ何も決めていない。黒木の話も検討すらできていない。これでは明確に答えようがない。

「おまえが村入りしてくれたら、わしも心強いんじゃ。他の連中は、みな親っさんも兄弟もおってくれるでのう」

 切実な口調になった。日ごろ自信満々な表情は影を潜めていた。

 兄ももう四十後半だ。弱気になるのも仕方はない。身内が傍にいない寂しさを痛感する年齢でもある。父がいなくても弟は確かにいる。しかし、その弟は、これまで外にばかり目を向けていて、まったく頼りにならなかった。

 それが事情は変わった。弟は都落ちしてきた。都会に幻滅しているのは確実だ。兄の願望が叶う状況は目の前にあった。

 しかし、弟は人のいい笑いを見せるだけで、態度をはっきりさせない。都会生活へ未練を残しているのかもしれない。

「まあ、ええけどな。お前の人生や。好きなようにしたらええ。そいでや。誠にはええ女子おらんのかい?」

 急に砕けた兄を見直した。

 好々爺然とした兄の笑顔があった。裏はない。面倒見のいい稀にみるお人好しなのだ。なくなった父親の丸写しだった。兄の年齢は、すでに父が生きた年齢を越しているのに気付いた。

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