1995年小説・帰って来たヒーロー・12

「お前にやって、まだまだやりたいことがあるんやろからな」

「「……兄貴……?」

 誠が開きかけた口を兄は遮った。

「そやけど、誠よう。いつかは必ず、ここへ戻って来い!お前にとって、町では見つけられん安らぎがあるんは、お前が生まれ育ったふるさと、ここにしかあらんのやからな」

 そう。兄が言う通り、ここふるさとは心を安らげてくれるものがあった。東京で殺伐たる中での暮らしを体現してきたあとだけに、誠はその優しい安らぎを独り占めするさ中にあった。



 宮入の時間まで、境内への道沿いに屋台を鎮座させて、氏子らはつかの間の待機に、興奮を徐々に高めつつあった。

 時間が来た。宮入である。周旋が本殿から急ぎ足で帰って来た。神主を挟んで役員が全員頭を揃えた、最後の打ち合わせが終わったのだ。

「さあ、用意はええか!

 澤田と兄が、若い連中に気合を入れる。

「呼吸(いき)を合わせるんやぞ!一発勝負や。N地区の男の意地と気合を見せタロやないか!奉納で情けない姿見せんなよ!」

「お、おうー!」

 若い衆だけではない。担ぎ手総勢の顔が興奮して赤く染まっている。彼らの覚悟は容易なものではない。

 兄が話していたが、ここ二年続けて、本殿の正面で屋台を差し上げて奉納する最高の場面で無様なさまを展開している。屋台を落とすという、あってはならない事態をみせてしまったのだ。

 氏子五地区の中で最大重量の屋台だった。それだけに豪壮華麗さは抜きんでている。それを歴代の地区を代表する男衆がプライドを駆使した奉納差し上げを見せつけて来たのである。

 それが落ちた!恥をかいた男たちは翌年に復活を賭けて臨んだ奉納の場で、再び落とした。三度目の正直だ。男衆の意気込みが異常な熱を帯びているのは、そういう伏線があったからだ。

「今どきの若いもんは頼りにならんのう。いっちょうわしらが出張ってやらにゃあ!」

 皮肉だけではない。引退を決め込んでいた中年の男たちが、今年は顔を揃えた。この様相が青年らを刺激し、相互の鼓舞につながっている。
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