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zoom RSS 1995年小説・帰って来たヒーロー・10

<<   作成日時 : 2016/05/01 00:38   >>

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風呂で温もった裸の体に真新しい白サラシを幾重にも巻き付けると、ピシッと身が引き締まる。祭り襦袢を羽織るのは6年ぶりだ。しばらく主人に見捨てられた格好だった、咆哮の虎が威圧的に描かれた襦袢は、久々の日の目に心穏やかではいられまい。兵児帯をきざに右腰に結ぶと、誠は気合を込めて立ち上がった。

「おう!誠やないけ。帰ってきたんかい?」
「珍しい顔が揃うたら、天気の神さんも面食らうわ。空は大丈夫かのう?」
 太鼓蔵の前でざわめく、お揃いの祭り襦袢をまとった男衆らが、目ざとく誠に気づいて言いたい放題を言う。悪意があるわけではない。小さいころから仲間だった連中である。よくわかっている。気恥ずかしくて顔を赤らめながらも、やはり嬉しかった。ここでは浦島太郎にならなくて済む。小学校や中学校で悪ガキを競った顔が、そこかしこで歓待している。
 モーニング姿の周旋は澤田だった。燕尾服を用意したのは、かなり昔である。今どきはモーニングで充分事足りる。丈が余ってだぶつく格好はご愛敬である。
澤田は今年五十を迎えて担ぎ手をいったん卒業の立場だ。腕コキの大工をやっている。酒も強く祭り好きと会って、もうべろんべろんに酔って気勢をあげている。
現役を張っていた時は、若い衆の尻を叩きまわり鼓舞したものだ。地区の屋台を神前に奉納するときには欠かせない男だった。それが周旋役を仰せつかる時代になった。さぞ物足りなく思い、歯がゆいに違いない。
 年を食ったと実感させられる心境は、都落ちの誠には明快に理解できる。
「ご苦労はんです。本日は、よろしゅうお願いします」
 青年が日本酒を注いで回る。スルメが山盛りされた籠を抱えた奴とコンビだ。酒で清め気勢をあげるのだ。いくら最近の若者が酒離れでも、祭りはまた違う。一升瓶が缶ビールを凌駕する場だった。
「そいじゃあ、出発します!ケガのないよう気張ってくださいや」
 周旋の澤田は盃を突き上げた。
「おぅー!」
 どよめきとともに、男衆は突き上げた盃の酒を一気に飲みほした。いよいよ祭りだ。男たちが男ぶりを存分に発揮するいち日が始まった。
 打ち子が打ち鳴らす太鼓にあわせて男衆が囃す。「やーっしょい!」「ドンドン」「ヤーッショイ!」「ドンドン」太鼓屋台が太鼓蔵から曳き出される。一年ぶりの日の目を見た屋台は、豪華絢爛な飾りを揺らし光をはじき返す。もう男衆の高揚は天まで達していた。
 
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