こんにちわ赤ちゃん・その3

「おとうさん」

「うん?」

 思いに耽って

いたらしい。

ハッと正気に戻ると、

娘の笑顔に気づいた。

娘の視線を追うと、

ベビーベッドで

スヤスタ眠る赤ん坊に

たどり着いた。

「よう寝とるのう」

「いまのところ、

順調に育ってるよ」

「そうかそうか」

 母性を隠せない娘に、

自然と顔が緩む。

 長女である。

妻と

結婚に踏み切れたのは、

彼女の存在が

あったからに他ならない。

短大卒業の後、

保母の仕事に

無我夢中だった妻と、

自分の喫茶店をオープンで、

てんてこ舞いの私。

十三も年の差があり、

すぐ結婚する気もなく、

ずるずると

交際を続けていた。

「できちゃった」

 妻に告白されたとき、

私の心は決まった。

(父親になるんだ!)

 三か月で

結婚式を実現させた。

娘を授からなければ、

結婚に至らなかったかも知れない。

 急遽出かけた新婚旅行も、

妻のお腹に娘はいた。

記念すべき

親子三人の初旅となった。

「おなか空いちゃった」

「そうか。

すぐ何か作っちゃる」

 赤ん坊が眠っていれば、

目の前にいるのは愛娘だ。

ちいさいころから、

よくお腹を空かせては、

食べるものを

作れとせがんだ。

その希望を

叶えてやるために、

次々と

レシピをひねり出した。

さて、

今日は何を作ってやろうか。

楽しい作業になる。

 振り返ると、

娘は寝入る赤ん坊を

優しく見つめたままだ。

やはり

母親を懸命にこなしている。

その姿がいじらしい。

 娘は

多難の幼少期を送っている。

生後間もなく発症した難病で

長期の入院を余儀なくされた。

ハイハイをし始めたころは、

仕事の邪魔になるので、

実家のおばあちゃんに預けた。

夫婦揃って

喫茶店を

切り盛りしていては、

とても身動きは取れない。

その犠牲を

娘に強いてしまった。
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