ゆるぎ岩・その4

『ゆるぎ岩』の感触はひんやりしています。

それにザラザラしたものが,

手のひらにくっつきました。

(お願いだよ。

『ゆるぎ岩』、

揺れてよ。

ぼく、

ズーッといい子でいたんだから。

これからも、

もっともっと頑張って,

いい子になるんだから)

 リューゴは自分の手に,

二倍はありそうな岩肌の手形の枠の中へ,

手を当てました。

「うん。

よーし!

じゃあ押してみろ」

 お父さんが大声で言いました。

自分が押しでもするように,

手をゲンコに握り締めています。

「よいしょ!」

 リューゴは掛け声をかけて、

力いっぱい押しました。

「いいぞ、

リューゴ、

もっと押し続けろ」

 お父さんの声が、

リューゴの頭の後ろからかかりました。

「うん、

わかった、

お父さん。

よいしょ、

よいしょ、

よいしょーっと」

「よいしょ、

よいしょ、

よいしょーっと!」

 リューゴの掛け声に合わせて、

お父さんも同じように掛け声を掛けます。

お父さんは、

もう嬉しくて嬉しくてたまらないのです。

「よいしょ!」

「よいしょ!」

 リューゴは,

期待いっぱいで上を見上げました。

お父さんも同じように見上げました。

(さあ、

揺れろ……1、

2、

3……!)

 リューゴは心を込めて号令をかけました。

『ゆるぎ岩』がリューゴの願いに応えて、

ゆらーっと揺れやすいように……。

「あれ?」

「う?」

『ゆるぎ岩』は揺れません。

ちっとも揺れる気配はありません。

どうして?

リューゴがこんなに懸命になっているのに、

一体どうなっているんでしよう?

 リューゴは(アッ!)と思いました。

やっぱり心配した通りになったのです。

リューゴは『ゆるぎ岩』に,

いい子だと認めて貰えないみたいです。

リューゴはガッカリしました。

体中の力が抜けてしまいました。

くにゃくにゃと,

お父さんの腕の中に身を任せました。

「おい、大丈夫かい?」

 お父さんは,

しっかりリューゴを抱きとめました。

「……お父さん…ぼく、

ぼくって……悪い子なの?」

「何だって?」

 お父さんは,

リューゴに思いがけない質問をいきなりされて,

ビックリしました。

「……ぼくさあ、

ダメな子なの?

いけない子なの?」

 リューゴは悲しくてたまらない顔つきで,

お父さんを見上げました。

涙が胃尼にもこぼれそうです。

お父さんはすっかり戸惑ってしまいました。

「だって…だって…動かないよ、

揺れてくれないよ、

『ゆるぎ岩』が。

ちっとも揺れない……」

(ハハーン!)

 お父さんはやっと分かりました。

きれいでよい心の持ち主でないと、

『ゆるぎ岩』は絶対に揺れないんだ。

そうお父さんが話したのを、

リューゴはちゃんと覚えていたのです。

だから、

『ゆるぎ岩』が全然揺れなかったので、

自分は悪い子なんだと、

ひどくショックを受けているのです。

何とかしないと……。

「ああ、

ちょっと待てよ、

リューゴ」

 お父さんは首をひねって見せました。

「なに?

お父さん、

どうしたの?」

「うん。

いま思い出したんだ。

そうだそうだそうだったんだ。

お父さんが初めて『ゆるぎ岩』を押した時のことだ」

「揺れたの?」

 リューゴはお父さんの話をひと言も聞き漏らすまいと、

ちいさな体を乗り出しました。

「そうなんだ。

揺れたから、

もう嬉しくてたまらなかったよ」

 リューゴは、

お父さんの言葉にガッカリしました。

(ぼくが押しても揺れなかったのに、

お父さんの時は揺れたんだ。

やっぱり、

ぼくは悪い子なんだ……)

 リューゴがしょぼんとすると、

お父さんは頬笑んで、

こう言ったのです。

「お父さんひとりで、揺らしたんじゃないんだ」

「え?」

                            (つづく)
画像

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック