ゆるぎ岩・その3

「さあ替わろうか。

こっちへ来てごらん」

 お父さんは、

『ゆるぎ岩』から手を離して、

言いました。

 リューゴは緊張してコチコチになりました。

だから「うん」と返事をしたつもりなのに、

実際は声が出ていません。

「うん?

リューゴ、

どうかしたのか」

 お父さんも、

リューゴの様子がいつもと違うのに、

気がついたようです。

「……お、

お父さん…?」

 やっと声が出ました。

「ぼく……もう押さなくていいから……」

「あんなに楽しみにして、

待っていたじゃないか」

「で…でも……きょうはいいんだ、

もう」

 お父さんは、

「ハハーン」と気が付きました。

「リューゴ、

怖いんだろ?

もし揺れなかったら、

悪い子だってばれちゃうって」

「怖くなんかないよー!

ぼく、

一年生なんだぞ。

それに…それに、

ぼく、

悪い子じゃないからね」

 リューゴはむきになって、

言い返しました。

「そうだそうだ。

リューゴはもう一年生だもんな。

それに、

そんなに悪い子じゃない」

 いい子っていうところを、

お父さんは少しふざけて言いました。

そして急に真面目な顔になりました。

「実はな、

リューゴ。

お父さんも子供の頃、

そうだ、

ちょうどリューゴと同じ一年生だった。

初めて『ゆるぎ岩』に連れて来て貰ったんだ。

『ゆるぎ岩』を前にしたら、

なぜかブルブル震えだして、

手がだせなくなってしまったんだ」

「ほんとう?」

「ほんとうさ。

いまにも倒れてきそうな気がしたし、

押しつぶされたらどうしようって思ったんだ。

足元だって、

崖になってて、

なんか目がクラクラしてさ……」

 リューゴはがっかりしました。

(ボクが怖いのは、

いくら懸命に押しても、

『ゆるぎ岩』がびくともしなかったらって、

……動いてくれなかったら、

ぼくは悪い子になっちゃうんだぞ)

「よーし!

お父さんがリューゴの身体を、

支えといてやるから大丈夫だ、

な。

さあ安心して、

思い切り押してみろよ」

 お父さんはリューゴの肩に、

そーっと手を置きました。

 仕方ありません。

こうなったらやるしかないようです。

 リューゴは勇気を出して、

一歩前に足を踏み出しました。

目の前にゴツゴツした岩肌が迫ります。

思わずリューゴは目をつぶりました。

「よし!

さあいくぞー!

 お父さんはリューゴの腰に手を当てました。

お父さんの力強さが伝わってきます。

 リューゴは目を開けました。

もう覚悟は出来ました。

両手を岩肌に向けて突き出しました。

岩肌の感触が……!

「いいぞ。

よしよし、

いいか岩肌にペンキで書いてある手形に、

掌を合わせてごらん」

 リューゴにもう迷いはありません。

『ゆるぎ岩』は、

絶対に揺れてくれるんだと信じました。

あんなに頑張っていい子になってきたんだ。

『ゆるぎ岩』はきっと知ってくれているはずです。

偉いお坊さんがプレゼントしてくれた、

奇跡の御神体なのだから。

 リューゴは、

手を前に突き出しました。

    
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