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zoom RSS おひとりさま1パック・その2

<<   作成日時 : 2015/12/06 00:05   >>

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出たり入ったり、背負ったリュックに卵のパックが五パックになると、いったん車まで戻る。助手席に積み上げておいて、また売り場へ戻る。あと五パックに挑戦だ。
「おはようさん」
 レジに並ぶと声がかかった。定年まで勤めていた工場の同僚だ。彼ももう定年を迎えている。しょっちゅうこのスーパーで顔を合わせる。アパートに一人住まいだから、買い物は自分でやるしかないのだ。人それぞれの事情がある。それも贅沢が叶わない年金生活だ。安売り卵の購入は、お互いに欠かせない。
「お宅もまた卵かいな?」
「当たり前やがな。物価の優等生やで、その力借りんとやってかれんわ」
 少ないうんちくを口にしている。
「一パックあったら、一週間は持つもんのう」
 同僚の顔が余計ショボクレテ見える。
「なに言うとんや。一パックじゃ足らへん。うち三人家族やけど、きょうは十パック狙いや」
「そないようけ買うて腐らしたら勿体ないぞ」
「アホ言え腐らすような下手な事すっかい。卵があったら、他におかずがのうても、どないかなるやろが」
「……賞味期限切れたら……?」
「そんなもんべっちょないわ。加熱したらなんぼでもいけるで」
 卵は重宝だ。賞味期限は生で食べられる期限を表示している。卵かけごはんだけ食ってたら、ちょっと考えモンだが、大体焼いたり茹でたりして食べるもんだ。期限が切れたら加熱すりゃいいのだ。はは〜ん。
 卵焼きだってかなりバラエティに富んでいる。厚焼き、出し巻き、オムレツ、炒り卵、ハムエッグ……。飽きることはない。そうそう、最近卵を使ったスィーツに凝っている。中でもプリンはお手の物だ。
「あんた、このプリン売ってるもんより美味いやないの。ようけ卵買っといて切らさんように作っときや」
 めったに亭主を褒めない妻が褒めそやすぐらいだから、自家製プリンはマジ美味なのだ。冷蔵庫に作り置きしておけば、甘いものに目がない、わが家のオンナどもが消費してくれる。勿論亭主だって、酒やたばこと縁切りして以来、寂しい口を補ってくれるのは甘いものだ。十個ぐらいはすぐなくなってしまう。
 プリンつくりで卵以外の材料は牛乳、生クリーム、砂糖、バニラエッセンス。生クリームは少々高いが、値引品を手に入れて賄う。生クリームを入れるか入れないかで、プリンの風味にすごい格差が生まれる。よく混ぜて容器に入れて蒸すだけだ。ちょうど百円均一ショップで一人分に頃合いの容器を見つけた。三十個も大人買い(?)して妻に叱られたが、容器に納まったプリンの上品さに、すぐ妻の機嫌は直った。
 七パック目になるとレジに並ぶ。卵だけではなく他の商品をガッポリ買いこんだ客の後ろに並ぶはめになると苛立ちが募る。
「あんた、それだけかいな?」
「はあ」
 カートに商品山盛りの買い物かごを積んだ客が振り返って、声をかけてくれたらシメタものだ。
「先にレジしなはれ」
「おおけに。すんません」
 人の好意は素直に受け取るものだ。断るなんて、相手の気持ちを傷つけてしまいかねない。頭をちょっと下げて礼をいえばいい。世の中は結構いい人が多いと感謝するのだ。
 十パックの卵を助手席に積み上げて、ホーッと息を吐く。仕事は終わった。思い通りの数量を買えて満足だ。
 家に着くと、意気揚々で玄関を開ける。
「お帰り。どないやったん?」
 待ち構えていた妻が性急に訊く。
「ほれ見てみい。十パックや、十パックやぞ」
「えらいえらい」
 口ぶりがあきれ果てている。定年で現役引退してから、お馴染みの反応だ。亭主がボケないために許しといてやるんだとの思いが滲んでいる。
「ほなら、いまから買いものに行って来るわ」
 妻の出番だ。日々の生活必需品は妻が購入する。
「あんたに買い物任せといたら、お金がなんぼあっても足りへんわ」
 一度買い物を引き受けた時、買って来たものを一瞥して妻は深いため息をついた。期待に副えなかったのだ。男と女の目利きと生活力の差はどうしようもないのを思い知らされた一件である。
 結局、卵とか砂糖のタイムセールスだけにお呼びがかかる。たぶん妻も並ぶのが嫌なのだろう。亭主以上に気が短いのだから。
でも、ちょっと買い過ぎやない、卵やって。これやから男の人に買い物頼みとうないんや」
 妻の皮肉は、もう狎れっこだ。あ〜あ〜!

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