母さんもっと優しくするよ

母さんもっと優しくするよ

 久しぶりに母を連れて姫路までドライブした。兄が亡くなってからなかなか誰も同行する時間が取れないので、寂しい思いをしていた母は、車の中でもよくしゃべった。
「結婚したころ、よくお父さんと自転車で姫路へ出て来たもんだよ。あのころは道も舗装されていなかったけど、二人で自転車を走らせてると、とてもいい気持でさ」
 初耳だったわたしは、思わず母の顔を見直していた。
 昭和20年代、父も母も若く、終戦後で自由の息吹きが感じられた時代を謳歌していたのだろう。しかし、今の母を見たらとても信じられない……。
「わたしらだってお前らに負けない青春があったんだからね。お父さんと同じように優しい息子も二人もできたし、本当に幸せだったよ」
 母は目を細めて、遠い昔を思い出すように車の窓から道沿いに展開する風景を眺めていた。心に、いまは亡き長男の面影をダブらせてみているのだろう。
(もっと長生きしろよ。おれ、まだおふくろに優しくし足りてないんだから……)
 たった一人残った不肖の息子は、胸の内にそう念じながら車を走らせた。
(神戸・1991・5・8掲載)

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