わが家の内助の功

わが家の内助の功 

 庭にある柿の木の実が、すっかり色付いて食べ頃になっている。ひとつもぎ取って口にすると、いい按配に熟していて美味しい。
(これなら、お袋やって食えるなあ…)
 もう八十を前後する年齢である父と母は、最近入れ歯の具合が悪いと嘆いている。しかし、この熟れた柿なら大丈夫だろう。
 二人は昔から柿が大好物である。親に似て私も柿には目がない。父や母が目を細めて柿を頬張っている様子が目に浮かぶ。
「おい、うちの庭の柿の木、ええ具合に熟れたわ。わしの家、みんな柿が好きやったなあ」
 食卓で何気ない風を装って話題に持ち出す。
「それやったら、明日でも、あっちの家へ持って行っときましょか。早い方がいいわよね」
 妻はすかさず、そう言った。これでもう安心だ。
「そないしてくれるか。喜びよるわ、親父ら」
 相好を崩す私。内心ホッとしていた。
 私と親の関係は傍目に見ればえらく他人行儀で冷たい。遅々と私も口下手で控え目なせいである。お互いに会えば、「ああ」「うん」「「おお」で大体のことは通じてしまう。それに、若い頃、私は道を少し踏み外して親に少なからぬ迷惑をかけたせいで、いまも親に引け目を覚える。親孝行はしたいが、なかなか態度に出せないのが本当のところだ。素直になれないのである。
「あんたとお義父さん、どうみてもいつも喧嘩してるみたい。まるで喧嘩相手やね」 
結婚当時、そう言った妻は、いつしか、私と父親は、外に見せないところでつながる絆を持っていると気付いてくれたらしい。そこで妻は、素直になれない夫に代わって、私が父や母にしてやりたいことを、私の言葉の端々から敏感に察して、それを具体的に実行してくれるようになった。
 すぐ近くにある両親の家に、妻はせっせと出かけると、父や母に、私からだといって、なにくれとなく世話を焼いた。父の日や母の日などは決して忘れずに、私からだと言う贈り物を用意した。
「お義父さんね、こんなええもん、済まんのう。あいつにおおけに言うとったと伝えてくれって、言ってはったわよ」
 そのたびに、妻はとびきりの笑顔で報告してくれる。
 私と両親の距離は知らない間に、昔の子供の頃の親子関係を取り戻しつつある。
 わが妻の致せり尽くせりの思いやりに満ちた橋渡しが功を奏したのである。近頃の私は、幸福を少しばかり取り戻し、えらく気分のいい毎日を送っている。声に出すのは面映ゆいので、心の中で、妻に感謝の思いを伝えている。
(我が家の内助の功エピソードコンクール冊子に掲載・掛川市観光協会発行・平成十一年3月7日)

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