二年目の春ーそして・完結

ところどころでくすぼる土堤を取り囲んで待機していたムラの連中は、頃合いを判断した隣保長の合図で、あらかた焼け終わった土堤の斜面に踏み入った。まだ余熱を残した焼け跡を、長靴で踏み固めると、形を残したまま焼けた雑草は灰になって崩れた。畦焼きはフィナーレを迎えた。
土堤のしたにある凹地に、まだ灯油が満たされたままの青竹が積み重ねられ火が点けられた。燃え上がったが、青竹だけにゆっくりしたものである。ある程度燃えると、いきなり勢いがついて炎が激しく上がった。時々、膨張した竹が爆発し、遠巻きに取り囲んだムラの連中の間にどよめきが湧いた。血の気の多い若い男が、鉈で青竹をスパッとやると、詰まっていた灯油が飛び散って新しい炎が性急に舞い上がった。
畦焼きの夜はムラの寄り合いと決まっている。畦焼きの慰労会を兼ねていた。
「お前も出な、あっこい」
と、雅樹に引っ張られて出席した昨年は、用意された折詰弁当とビールの飲み食いに専念して時間を過ごした。おかげで少し呑み過ぎたきらいがある。別に誰かが話しかけてくれるわけでもなく、慎三の方も話し掛ける勇気を持ち合わせていなかった。集団の中で味わう孤独感は、数倍の苦痛となった。
「新しく農会入りして貰います。湯口慎三はんを紹介します」
慎三の新入会は、農会長の挨拶の中で、そう触れられただけだった。慎三はペコッと頭を下げただけで、別にひと言も挨拶する間もなく、宴会は無礼講の流れとなった。慎三は中途半端なたちばを強いられたのである。
「おい、もうそろそろ農会の時間やど。俺が迎えに行こうか?一緒やったら行き易いやろが」
 相変わらずお節介な兄の電話だった。
「ああ、いや、勝手に行くよって、構わんでええし。先に行っといてえーな」
 そう答えはしたものの、どうも素直に尻が上がらなかった。前回のように、疎外感を味わうのは御免だった。たぶん慎三が出席しようとしまいと、誰も気に止めまい。それは確かだった。
(後で腹が痛うなったいうたらええわ……)
 慎三は小学生が学校をさぼるための仮病を頭に浮かべた。
 いきなり勝手口が開いた。雅樹の顔がそこから覗き込んだ。
「こんなこっちゃと思うたわ」
「あ、ちょっと…腹具合が…」
「なにガキみたいなこと言うてんねん。ちょっと顔出ししたら、無礼講に紛れて抜けたらええが」 
 雅樹は年齢に似合わぬ老成した口調で言った。
「ええか、慎三。お前が垣作っとる限り、ホンマのムラ入りは出来んがい。郷に入れば郷に従えや。ちょっとの辛抱じゃ。すぐみんなもお前を仲間と認めてくれよるよって。…ほい!もう時間ないわ。さあはよ靴はけ。急ごうや」
「ああ」
 長兄の思いが分かっているだけに、慎三に逆らえるはずはなかった。いくら気鬱な農会が待ち構えているとしてもーー。慎三は重い尻を上げた。
 慎三は雅樹の後について行きながら、ウツウツと思った。二年目の畦焼きもさほど進歩の見られないものとなった。こんな状態では、来年の三度目の正直となる畦焼きだが、慎三に自信は露ほども湧きそうにない。
 慎三は後向きの考えを振り払うように頭を左右に振った。今はそれどころではない。目の前に迫っている農会で孤独な席に座り続ける苦痛を克服するのが先決問題だった。
「おう!雅樹か。遅かったやないけ」
 雅樹を迎える大声が、慎三の目の前を真っ暗にした。しかし、逃げ帰るなど出来はしない。慎三は震える足をグッと前に踏み出した。このムラの連中の一人と鳴るために……!
(完結)

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