こころの風景・1

恋する二人の作戦勝ち

 若い頃、付き合っていた彼女の父親は当時国鉄に勤務する堅物で、娘の門限は8時!二十歳を過ぎた彼女にそれはないだろうと思っても無駄なことだった。
 レストランの調理場で働いていた私は、大体仕事を終わるのが十時過ぎ。とてもゆっくりとデートを楽しむ時間が取れるどころか、門限を前に顔を見るのもまままならない。
 そこで彼女が名案を考えた。
 家の前の道路沿いに車を停めて待っていれば、一度帰宅した彼女が犬の散歩や買い物に出て来る。何にも用がないときは、自室の窓から顔を出す彼女と見つめあうという変則デートも。
 さすがに彼女の父親は、門限をちゃんと守って帰宅する娘に何も言えず、時々家の前に出て落ち着かない素振りでウロウロし、車を見やっていたのを覚えている。
 結局、近所の手前もあったのか、門限は十一時まで延長された。恋する若い二人の作戦勝ちだった。
 その私が今はあの父親と同じように、娘の帰りを待ってウロウロする立場になってしまった。(読売ライフ1995・9月号掲載)

夏の楽しみ方

 夏休みは、私と子どもたちのスキンシップを深める大切なシーズンになって久しい。といっても、子どもの立場に立ってみれば、はなはだ迷惑なことなのかも知れない。
 そりゃそうだ。夏の暑い盛りに畑の世話を親子でやろうというのだから。内心は「どこかよその家の子どもになりた~い」と思っていても無理はない。
「今どき、そんなん可哀想よ。子どもは、とにかく遊ばせてやらなければダメよ」
 と妻は言う。町育ちの妻には理解できゃしないのだ。畑仕事は自然との遊びごと、楽しい発見があるのだ!
 水不足の昨夏は、毎日川から水をくみ上げて畑に運び、ヒーヒー言った。しかし、その成果である立派な夏野菜がわが家の食卓を飾ったとき、わたしと子どもたちの共有する苦労話がはずみ、どんなに楽しかったことか。
「私だけ仲間はずれなの。いいわよいいわよ」
 ワザと拗ねて見せた妻も実に楽しそうだった。
 そんな家族の絆を作ってくれる夏が、今年もやってきた!ただ、水不足は出来れば勘弁してほしいものだ。
(ミセス通信・1995年8月6日掲載)

愛されるおじいちゃんに

 4人の子どもがいる。高校生の末娘のほかはみんな社会人。彼らの情報は、妻経由で知らされる。長女も息子らも、近況を知らせるメールを妻の携帯に送ってくるらしいが、私の携帯には一件も来ない。男親はそんなもんと言い聞かせてはみても、やはり寂しい。そしてむなしい。
 内弁慶な性格もあって、知人どころか、家族にも他人行儀になってしまう。子どもらにも同じ。小さい頃から心をゆるした親子の会話はひどく少なかった。そのせいである。人生六十四年目にして、孤独の悲哀を味わうのも当然の報いだ。
でも何とかしたい!最近切実に思う。しかし、性格がそう簡単に変わるはずがない。父と子の距離を縮めるのは……ああ~あ~。
そうだ。近く長女が結婚する。もし孫が生まれたら、思い切って、愛されるおじいちゃんに変身したいなあ。
父親は不合格だったとしても、おじいちゃんなら、何とかすれば合格点を狙えるかも知れないではないか。うん!そうだ。
これぞ人生最後の機会、満を持して迎えることにしよう。孫の笑顔に、子どもらからのメール。心から喜べる日々を想像しながら、孫に愛されるおじいちゃん像を、じっくりと学んでおこう!
(読売ライフ・2013年10月号掲載)

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