誕生!家族っ子、すず実・完結

みんな輝きだした

「お母さん、このごろ、えろう優しいなったん違う?」
 ある日、奈津実がポツンと言った。
「なんで?」
「ポンポン言わんようになったやん。そいに一緒に勉強してくれるようになったわ」
 ハッとした。
 そうだ。すず実誕生以前の私は仕事ひと筋だった。精薄児の通園施設保母の仕事に打ち込んでいた。子どもたちへの愛情と仕事を両立させているつもりだったが、どうやら口だけの母親を演じていたのだろう。
 すず実の誕生が、私を仕事の呪縛から解き放ち、子どもらの優しい母親に立ち戻らせてくれたのは確かだった。すず実を見つめているだけで生まれてくる心のゆとりが、ほかの子どもたちに振り分けられる心の糧になっている。
 ゆっくりと家族の様子を窺ってみて気がついた。子どもらの笑顔。みんなすず実に負けないで輝きだしている。
 成績が悪くて自信を失いがちだった奈津実は、すず実のお姉ちゃんになって大きく変わりかけている。赤ちゃんに話しかける奈津実お姉ちゃんは、これまでの寡黙になりがちだったのが嘘みたいに冗舌になった。
 ちょっと照れ屋でお年頃の誠悟は、誰も見ていないのを確かめると、赤ちゃんにあやしかけている。像物好きの彼の優しさは、可愛い妹の誕生でさらに大きくおおきくなるのは間違いない。
 自分の遊びだけしか頭になかった龍悟も、お兄ちゃんぶって、赤ちゃんの相手になる時間が多くなった。人を思いやるひとつのきっかけを、すず実は彼に与えてくれたのである。
「おーい!はよ来てくれよう。すず実が上がりたいゆうてるんや!」
 風呂場から夫が大声で呼んでいる。
「あたしが行く」
 台所仕事の私に、奈津実は(まかせなさい!)というふうに顎をつきだして頷く。
「きょうはボクが行く番やんか!」
 誠悟も急いで立ち上がる。
「ボクも手伝う!」
 龍悟はすでにバスタオルを手に広げて用意万端である。
「じゃあ、みんなですず実を上げてくれる?」
「うん!」
 子どもたちは声を合わせて大声で返事すると、いっせいに風呂場へ向かった。
 それを見送る私の耳に、風呂場でワイワイガヤガヤと、すず実をかいがいしく世話する、頼もしいすず実の兄弟姉妹の声が届いた。もちろん、夫の嬉しそうな声も混じっている。
 すず実はわが家にしあわせを運んでくれた天使なのだ!
(バルーン大賞受賞作・平成9年4月)

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