ゆらゆらゆ~るりゆるぎ岩・その2

お父さんは嬉しそうに説明してくれました。
「お坊さんは村の人たちにこう言ったんだ。この岩は、いい心の持ち主ならば、ちょっと押すだけで揺れるが、悪い心の持ち主は、どんなに力をこめて押そうとも決して揺れない。びくともしないだろうってね」
「フーン。不思議な力なんだ」
「そうなんだ。だから、村の人たちはいつ押しても岩がちゃんと揺れてくれるように、いつも心がきれいで優しくいられたんだってさ。おしまい」
 お父さんの話はリューゴの心の中にしっかりと残りました。それで、いつも優しくきれいな心でいようと努力をしてきたのです。だから『ゆるぎ岩』は揺れてくれるはずです。
 でも、実はリューゴには不安もあります。だって、お母さんのお手伝いをしなかったり、駄々をこねて困らせてみたりと悪い子の時の方が多かった気がします。
(もしも『ゆるぎ岩』が揺れなかったら、どうしよう?)
 リューゴは小さな胸をドキドキさせました。
「さあ替わろうか。こっちへ来てごらん」
 お父さんは『ゆるぎ岩』から手を離して言いました。
 リューゴは緊張してコチコチになりました。だから「うん」と返事をしたつもりなのに、実際は声が出ていません。
「うん?リューゴ、どうかしたのか」
 お父さんもリューゴの様子がいつもと違うのに気がついたようです。
「……お、お父さん…?」
 やっと声が出ました。
「ぼく……もう押さなくていいから……」
「あんなに楽しみにして待っていたじゃないか」
「で…でも……きょうはいいんだ、もう」
 お父さんは「ハハーン」と気が付きました。
「リューゴ、怖いんだろ?もし揺れなかったら、悪い子だってばれちゃうって」
「怖くなんかないよー!ぼく、一年生なんだぞ。それに…それに、ぼく、悪い子じゃないからね」
 リューゴはむきになって言い返しました。
「そうだそうだ。リューゴはもう一年生だもんな。それに、そんなに悪い子じゃない」
 いい子っていうところをお父さんは少しふざけて言いました。そして急に真面目な顔になりました。
「実はな、リューゴ。お父さんも子供の頃、そうだ、ちょうどリューゴと同じ一年生だった。初めて『ゆるぎ岩』に連れて来て貰ったんだ。『ゆるぎ岩』を前にしたら、なぜかブルブル震えだして手がだせなくなってしまったんだ」
「ほんとう?」
「ほんとうさ。いまにも倒れてきそうな気がしたし、押しつぶされたらどうしようって思ったんだ。足元だって、崖になってて、なんか目がクラクラしてさ……」
 リューゴはがっかりしました。
(ボクが怖いのは、いくら懸命に押しても『ゆるぎ岩』がびくともしなかったらって……動いてくれなかったら、ぼくは悪い子になっちゃうんだぞ)
「よーし!お父さんがリューゴの身体を支えといてやるから大丈夫だ、な。さあ安心して思い切り押してみろよ」
 お父さんはリューゴの肩にそーっと手を置きました。
 仕方ありません。こうなったらやるしかないようです。
 リューゴは勇気を出して一歩前に足を踏み出しました。目の前にゴツゴツした岩肌が迫ります。思わずリューゴは目をつぶりました。
「よし!さあいくぞー!
 お父さんはリューゴの腰に手を当てました。お父さんの力強さが伝わってきます。
 リューゴは目を開けました。もう覚悟は出来ました。両手を岩肌に向けて突き出しました。岩肌の感触が……!
「いいぞ。よしよし、いいか岩肌にペンキで書いてある手阿多に掌を合わせてごらん」
 リューゴにもう迷いはありません。『ゆるぎ岩』は絶対に揺れてくれるんだと信じました。あんなに頑張っていい子になってきたんだ。『ゆるぎ岩』はきっと知ってくれているはずです。偉いお坊さんがプレゼントしてくれた奇跡の御神体なのあから。
 リューゴは手を前に突き出しました。
(続く)
(1994年8月創作)



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