誕生!家族っ子、すず実

すず実は家族っ子

 ただいま、わが家の一日はすず実で始まり、すず実で終わる。年齢が離れているだけに、お兄ちゃんお姉ちゃんらにも、それに文句はなさそうだ。どうやらすず実は『家族つ子』になりそうだ。
 長女はわたしと夫が商売で忙しい時期に生まれたせいで、夫の実家のおばあちゃんに育てられた『おばあちゃん子』。長男は当時やっていた喫茶店で、戸棚や倉庫に寝かしつけたりして、商売をしながら育てた子で、お客さんもけっこうめんどうを見てくれたりで、『店っ子』。次男は喫茶店を辞めたあとに生まれ、そのころ家事育児を一手に引き受けてくれた夫が、男手ひとつで育てたかっこうの『お父さんっ子』。
 それでいけば、私も夫も子どもたちもみんながこぞって世話するのに夢中になってしまうすず実は、いわゆる『家族っ子』と言えるだろう。 
 夫は産み月に臨んで仕事を辞めて主婦専業となった私は、心ひそかに、(このすず実だけは『お母さんっ子』に育ててやるぞ)と誓っていたのである。だが、予想外な家族の攻勢に、お母さんの目論見はいっぺんに崩れてしまった。
 でも、いまほど心穏やかに赤ちゃんの成長に付きあえる体験は、上の3人の子どもらのときには味わったことがない。いつもバタバタ、ドタドタ追いまくられて、少しも余裕がなかったのを思い出す。
 それが、いまは赤ちゃんのペースに逆らわず、より自然体で接する自分がいる。母親の心のゆとりは赤ちゃんには充分伝わるものらしいと悟れたのである。 
 すず実は周囲に私や家族みんなの気配を独り占めにして、いつだって安らかに寝息を立てている。
 こちらを振り返ってニコッと笑い返す赤ちゃん。寝転がったまま元気いっぱいバタバタ動かす、ちいさな手と足。身体をグッとそらすと、何かをあがしてキョロキョロ。ひとつひとつの動きに安心しきったものがある。
「すず実お産んで、本当によかったわね」
「ああ」
 そう答える夫は、心機一転して新しい仕事に奮戦中である。
「こいつの顔を見ると、疲れもなんもパーッと吹き飛んでいまうな」
 と、家にいる間はすず実にベタベタし続けてちっとも離れようとしない。彼のすず実を見る目は底抜けに明るく温かい。

パート、始動!
 わが家は自慢じゃないが貧しい。専業主婦も出産3ヶ月後までぐらいが限度だった。それでパートの仕事を見つけて働き始めた。夕方6時から明けの朝7時ごろまで仕事に追いまくられてクタクタになって帰宅する夫。さあ、お次は私の出番。昼の1時から夕方5時までのパートタイム勤務。
 赤ちゃんを残して働く母親に、少々不安を感じながらもなった。
 家に残した赤ちゃんと夫。(うまく行くかなあ…)と思ったのも、働きだした日から3日ぐらいまでだった。さすがお父さんと見直してしまった。『お父さんっ子』龍悟をちゃんと育て上げた夫の実績はだてじゃなかったのだ。
 パートを終えて急いで帰宅した私を迎えるのは、ニコニコするすず実と悠々自適然とした夫の姿だった。
 思わず頬笑んでしまう私。
「たいへんだったでしょう?」
「なーに。すず実が相手やないか。時間なんかアッと言うまに過ぎてしまうがな」
 どうってことないといった夫の言葉だが、その裏にすず実おおしめ替えや、泣く赤ん坊をあやすための散歩やお乳やりに躍起となって取り組んでいる夫の姿は容易に想像できた。
 心の中で(ありがとう!)と夫に言う。夫の方も、心の中で(バカヤロ!すず実は俺たちの宝物やないか。甲斐性なしの俺の方が、おまえにありがとう!やがな)とムキニなって言っているに違いない。(続く)
(バルーン大賞受賞作・平成9年4月)

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