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zoom RSS ミニノベル・雨の贈り物(その2)

<<   作成日時 : 2017/05/15 00:29   >>

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「幸央がおってくれたらねえ」
「アホ。
あいつの話はもうすな。
けったくそ悪い」
息子の名を和子が口にすると、
幸吉は一遍に不機嫌になる。
栗饅頭を指で摘むと、
まるで憎い敵を
見つけたように睨みつけた。
そして荒っぽく口に放り込んだ。
味もへったくれもない。
「そない怒らんでも……」
夫を見やって、
諦めたように
和子は小さく頷いた。
幸央が家を出てから
五年になる。
最初は盆正月と秋祭りには
必ず顔見せに帰って来た。
ここ三年は全く顔を見せない。
手紙も電話もプッツリだった。
メールという便利な通信手段は
あるらしいが、
幸吉夫婦は
携帯を持っていなかった。
幸吉が激しく文句を言ったせいだと、
和子は
しょっちゅう夫を責めたてた。
そうかも知れない。
そう思う幸吉は
無言で妻の罵声を聞き流した。
もう慣れっこである。
それだけ
年を経たということだった。
とは言え、
頑固な父親はさておいても、
せめて母親には
連絡を入れてくれても
よさそうなものだ。
和子は姿の見えない息子を
恨みがましく思い
憂さを晴らした。
勿論、
親子関係を勘当状態にした夫に
責任転嫁して責めるより、
実害は少なかった。
「おい、
誰ぞ来たんと違うか?」
「え?ほんま……」
「玄関が開きよった思うぞ。
ちょっと覗いてこいや

「はいはい。仰せの通りに」
逆らうのもばからしい。
素直に立ち上がった和子は、
冗談口を叩きながら
玄関に向かった。
雨のおかげで、
少々の物音なら消されてしまう。
ただ幸吉の勘は
普段から鋭い。
殆ど的は外さない。
たぶん今度も
誰か訪問者がいるのだろう。
幸吉は
残りの栗饅頭を頬張りながら、
窓の外に広がる、
鬱陶しい雨脚に
煙る景色に目をやった。
「あんた!はよ、
こっちへ来て」
和子のけたたましい声に、
幸吉は驚いた。
慌てて玄関へ向かった。
「どないしたんや?」
防衛本能が働いたのか、
幸吉の両拳は
強く握り締められている。
「あんた。ほれ、ほれ」
和子は、もう泣き声だった。
玄関に幸央が立っていた。
「……お、お前か?」

「ただいま」

間違いなく息子の声だった。
幸央の小生意気な顔が
そこにあった。
幸吉は金縛り状態で
立ち尽くした。
時間が停止した。
幸央から一歩下がった背後に、
若い女が
戸惑うような笑顔を見せている。
彼女は、
おくるみの赤ん坊を
抱きしめていた。
「お前…なんや?
……帰ってきたんか……?」
幸吉は茫然と、
それでも
息子を前にした父親の威厳を
保とうと焦った。
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